『フィンランドのフェミニズムフォークロアバンド、VPPJ』

北欧 フィンランドからの手紙

『フィンランドのバチェロレッテパーティーとブライダルサウナ(後編)』でフィンランドの土着の習慣について少し触れたが、その夜に友達のトゥーリが昔から伝わるというフィンランドの民謡を歌ってくれた。

その民謡はフィンランドの南東部からロシアの北西部にかけて広がるカレリア地方と呼ばれる地域から伝わったもので、キリスト教が伝来する前のフィンランドの独自の価値観や考え方がふんだんに歌詞に込められているんだよ、とラウラは教えてくれた。

「今では女性の性器の名前を口にしたら下品だとか卑猥だとか言われてしまうけど、昔のフィンランドでは女性の性器には特別な意味があったんだ。パワフルで、神秘的で、魔術的な。だってそこから子どもが出てくるんだよ、生命を作る場所だよ」とトゥーリは言う。トゥーリは助産師、つまりお産が専門の看護師だ。そして32歳で、すでに子どもが4人もいる。

そして「私が知ったきっかけは『 VPPJ(Verta, pornoa ja propagandaa, JUMALAUTA! )』というフェミニストのフォークバンドだから、もし興味あったら聴いてみて」と面白いバンドも教えてくれた。

『 VPPJ(Verta, pornoa ja propagandaa, JUMALAUTA! )』(日本語にすると血、ポルノ、プロパガンダ、クソッ!)は公では不謹慎と咎められたりするような性にまつわるタブーや女性の団結について、フィンランドに古くから伝わる口承伝統の民族音楽の観点などから再考・再評価する企みで作られたバンドである。ジャーナリストでシンガーのアマンダ・カウランネが中心となって、女性をエンパワーするための活動へと繋げている。バンドメンバーは全て女性、バンドのロゴのデザイナーも、音楽のエンジニアも女性だ。

カンテレやヨイクなど、フィンランドに伝わる音楽や歌唱法を採り入れたコンサートを展開し、女性が暴力の犠牲となってきたこと、レイプや堕胎について口にすることさえタブーとされてきた歴史、現代でも女性が生の主体となることはない状況において、音楽的に女性のオーガズムをどう表現するか、などのマニフェストを訴えている。

「女性が自分の意見を口にすると、それは社会にとっては脅しだとみなされる。今でも教会では静かにしてましょう、とばかりに、日常の中で女性には慎ましやかな行動が求められる。民謡ではお産の時にかけるおまじないや、流産を促す野草を摘む歌詞などが登場する。それは恐ろしいほど現代の私たちに共通している。そこには女性に対しての制限があり、自分の性に関しての権利を認められない法律があり、異常なほどに性的な客体化を迫られるという世界各国に共通する現実がある。」とアマンダはインタビューで話している。

「また、民謡とは歴史や伝統に関係するということで、それは常に政治的–つまり政治的愛国的な考え方に基づく。民謡が集められた地域は主にカレリア地方などのフィンランドとロシアの国境にある土地がほとんで、その土地には多様な民族があったにも関わらず、あたかも統一的なフィンランドであるかのような愛国プロパガンダが民謡にはまとわりついている。ナショナリズムは家父長制的発想にも結びついている。そしてフェミニズムとは、一般的な意味においても個別的な意味においても、決して女性の権利のみを拡張しようというものではない。何百年もの間虐げられてきた女性を解放することにとって、それはジェンダーにかかわらず全ての人の救済になる。誰もが決まりに縛られることなく、自由に生きることができる」とアマンダは言う。

このバンドを知って思い出したのは、昔エリナさん(私がフィンランドに住むことになったきっかけとなった人の一人。エリナさんの話はいつかまた)からもらった本だ。

読んだのは10年以上前、大学院でフェミニズム理論を学んでいた時。すっかり内容を忘れていたので、再読しているけれど本当に面白いい。次回はこの本について是非触れたいと思う。



写真・文 : 吉田 みのり



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