『ヘルシンキのレストラン紹介② フィンランド初のゼロ・ウェイスト・レストラン「Nolla(ノッラ)」』

北欧 フィンランドからの手紙

Ravintola Nolla、「レストラン・ノッラ」はサステイナビリティーに重点を置いた、フィンランド初のゼロ・ウェイスト(食糧廃棄がゼロ)のレストランだ。「ノッラ」はフィンランド語で「ゼロ」を意味する。

セルビア出身のルカ、ポルトガル出身のカルロス、スペイン出身のアルベルトの移民である3人が集まって知恵と経験と大志を集めて作ったお店は、オーガニックと自産自消の食材、4つのR(”Refuse”(拒否), ”Reuse”(再利用), ”Reduce”(削減), and on last instances, ”Recycle”(そして最後の過程としてのリサイクル) をモットーに掲げ、食料廃棄を徹底的に削減するノウハウを模索しながら実現している。

メニューは地産地消を前提としているため、季節や状況に合わせて目まぐるしく変わる。平均的なレストランは一年に7トンのゴミを排出しているというが、このレストランでは大きなコンポストマシンを設置して、食糧をはじめ包装紙やコルクなどのオーガニックなゴミはコンポストで培養土に変えているそうだ。培養土は週に1~2度の頻度で地元の農家に提供し、代わりにリンゴなどの農作物と物々交換しているそう。画期的なことを採り入れた先には、昔なつかしい物々交換や土との強いつながりがあるというのがとても良い。床も食器もオーガニックの石鹸を溶かして洗うのでプラスティックが介在しないそうだ。

ナプキンやユニフォーム、エプロンなどはペットボトルの再利用で作られたナプキンで、花瓶やグラスも再利用だ。オープンした直後に訪れたときはまず大きなコンポストマシンがあるゴミ室に連れて行ってもらった。レストランを訪れて、最初にゴミ室に通されることはなかなかないのではないだろうか。ゴミ室といっても、コンポストマシンがあるだけで、ゴミ箱は一切ないし、臭くもない。レストランの未来を見たような気がした。カルロスが誇らしげにマシンについて説明してくれて、業者からどのように配達を受けるかなども教えてくれた。

Nollaは当時カルロスがヘッドシェフを務めていたレストラン「Holiday」でポップアップレストランを何度か開催し、その後Kruununhakaにオープン。1年も経たない間に「ヘルシンキのベストレストラン」の上位に選ばれ、その後Punavuoriのマイクロブリューワリー付きのレストランに移転し、1年かけて自分たちのビールを開発し、ビール会社もローンチした。ビールの作る上で発生した麦の残りかすはレストランで提供するパンに使っているそう。

コンセプトだけでも注目に値するレストランだけど、ヨーロッパ各地の名だたるミシュラン星レストランで修業を積んだシェフ、アルバートの繊細で爽やかな料理がいちばんの醍醐味。一口一口が天国。料理は人柄を映すとはこのこと。地元の漁師や近くの農園から送られるとびきり美味しいけれど慎ましやかな食材を、あらゆるテクニックを駆使して、お皿の上に幸福を乗せておもてなししてくれるのだ。

スターターのリンゴとカブと白身魚のクリーム。ペアリングはリンゴとアクアヴィットのカクテル。

次にキノコと玉ねぎのワッフル乗せ。プロシュートハムが味わい深い。手を使って豪快に食べる。

バターを乗せているうつわはワインボトルを切ってひっくり返したもの。お水用のグラスもワインボトルのリサイクルだ。

肉料理の鹿のタルタル。ビーツと赤スグリがスモーキーなフレーバーのタルタルにピッタリ合っていた。

魚料理はカワメンタイとポテト。玉ねぎのソースがクセになる味。デザートの前に出てきたチーズはクリスプブレットの上に蜂蜜、チーズ、コーヒーの粉(コーヒーを淹れた後の粉を再利用したもの)。

セルビア出身のルカは短期間だけ同じレストランで働いたことがあって、今でも友達。以前はシェフだったけど、お店のオーナーになると同時にソムリエに転向。現在はセルビアをはじめ、ヨーロッパ各国から美味しくて珍しいナチュラルワインを仕入れている。

レストランを利用しても良いし、ビールやワインだけ飲むためにふらっと寄っても良いのも嬉しい。

ロックダウンの期間は「Nolla To Go」という名前で、テイクアウトを展開している。ブリューワリーで作られた出来立ての生ビールを買うこともできる(瓶も買って、何度でも再利用する仕組み)。

パンデミック後も、アアルト大学の大学生と一緒にサステイナブルプロジェクトを展開したり、バルト海で採れた、商業的に人気がないために棄てられる魚を利用したメニューだけを提供する週を設けたり、環境を考慮し、自然と共存することを目的に考えられたガストロノミーの追及を止むことなく続けるNolla。みんな良い人ばかりなので、これからもどんどん応援したいし、刺激しあう仲でいたいと思う。

(余談ですが、同級生と行っているポッドキャスト番組「SEKAIのびんづめ」)の最新回でもオーガニック農業やゼロ・ウェイストについてお喋りしています。Appleはこちらから、Spotifyはこちらから、お聞きいただけます。3回に分けて話しているので、ご興味のある方はぜひ。もちろん無料です。)

写真・文 : 吉田 みのり

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