『ヘルシンキで肝試し?!クルーヌヴオリのゴーストタウン』

北欧 フィンランドからの手紙

メトロのHerttoniemi駅からバスで行ける、Kruunuvuoriという地区にあるその名もゴーストタウン。再開発の計画がとん挫して放棄されたいくつもの廃墟は、夏には緑に覆いつくされてなかなかその全貌を見ることができないけれど、春のはじまりに訪れた時は怖さと面白さが混在したとっても面白い場所だった。

海のそばに建つ豪華な家々は、もともとは夏の別荘として当時の富裕層が所有していた優雅な建物だったそう。海からは反対側にあるヘルシンキの中心地が見えるため(そして船で気軽に行くこともできる)、19世紀末頃に最初の館が建ち始めたらしい。その後1920年代から60年代にかけて隆盛を極めたが、1955年にビジネスマンであるAarne J. Aarnioが土地の所有権を勝ち取り、何千人が住めるような地域開発を目論んだものの市からの許可が下りず、人々は次から次へと美しい館を手放し、やがて土地所有者も土地を放棄。1970年代には廃墟となり、若者が秘密のパーティーをしたり、ヒッピーが住みつきコミューンとして暮らすようになったが、間もなくそれもかなわないほどに老朽化が進んだ。

屋根からごっそり崩れ落ちている、一切近づくことさえできないような廃墟もあれば、住めるほどではないものの部屋の様子が分かるような状態の廃墟もある。ある廃墟の中に入って抜けそうな床を歩いてみたら、1965年の新聞や1971年の手紙を見つけた。廃墟となる前の裕福な人々の暮らしが分かるようなベッドや家具。この家々で何が起きて、どんな人々が暮らし、人々はどんな思いで放棄したのだろう。悲しい運命をたどった、かつてのリゾート地。夜はとてもじゃないけどこの周辺を歩けそうにない。でも昼は肝試しをかねた散歩にも良いし、海も森もあって美しくサイクリングにもとっても良い場所。でも行ったのはもう数年前なので、今行ったらもう跡形もなくなっているかもしれないなぁ。人々の思いや歴史をゆっくりと、しかしものすごい勢いで飲み尽くしていく自然に、やっぱり畏敬の念を持たずにはいられない。

写真・文 : 吉田 みのり

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