#02_M Messmör / Mesost(ホエイバター、ホエイチーズ)

スウェーデン ABCブック

Messmör/Mesost
ホエイバター、ホエイチーズ
名詞
動物の乳からチーズを作る際、副産物として生成する乳清(ホエイ)から作られる乳製品。バターやチーズの名がつくが厳密にはその両方とも違う。

スウェーデンを代表するチーズといえば真っ先に思い浮かぶのはヴェステルボッテンチーズ(Västerbottensost)だと思う。これをチーズの王様と呼ぶスウェーデンの人も多い。うまみや塩味、苦味がきいたハードチーズで、夏の風物詩であるザリガニやニシンの酢漬けなどと一緒によく供される。このチーズでつくった特別なパイ、ヴェステルボッテンオストパイは僕も大好きだ。

こちらはヴェステルボッテンチーズ。ナッツのような香ばしい香りがたまりません。

しかし今回取り上げたいのは、チーズの名を持ちながらチーズではない、バターの名を持ちながらバターではない、少し変わったスウェーデンの食べ物だ。

ホエイという言葉を聞いたことがあるだろうか。ワークアウトをする人にはおなじみかもしれない、粉末プロテインの原料として有名なあれだ。もっと身近なもので言うと、ヨーグルトのパッケージを開けたとき、うっすら浮いている透明な液体。日本語では乳清という。ホエイバターとホエイチーズはこれを原料にしている。

本来、チーズは、大雑把にいえば、動物の乳からタンパク質の一種であるカゼインを乳酸発酵や加熱などの過程をへて、凝固させ取り出したもの。一方、ホエイバターやホエイチーズは上記の過程で生成された残り物を煮詰めることで作り出す。だから厳密にはバターでもなければチーズでもない。単に水分を飛ばし、乳糖をキャラメル化した固形物だ。

一方、ホエイチーズはこんな色。作り手によって色も硬さもさまざま。

僕が初めてこの食べ物に出会ったのはルーレオという北スウェーデンの街。深夜のクラブ帰り、マイナス20度を下る極寒の中、やっと捕まえたタクシーで友人宅に帰宅。そこでご馳走になったのが、はちみつ入りの濃い紅茶、自家製パン、そしてこのホエイチーズだった。紅茶の暖かさもさることながら、ホエイチーズのキャラメルのような甘く、それでいて塩みが聞いた濃厚な味に、体の芯から温められたのを覚えている。

左下がホエイバター。これは牛乳が原材料のため素直な味わい。

その後、幾度となく食べたホエイチーズだが、これがチーズではないこと、そしてあの時食べたのはノルウェーのメーカーのものだったということ(トビラ写真、右上のえんじ色のもの)を後になって知った。調べてみたら、ノルウェーの他、スウェーデンでも北部のイェムトランド地方(Jämtland)とハリエダーレン地方(Härjedalen)が有名な産地だという。


 

ストックホルムの市場にて。チーズ専門店では小規模生産者のホエイチーズ(中央上)がみつかる。

実は現在、大きな市場のチーズ売り場で自家製品を売っている店が残っているものの、大手メーカーで現在も生産しているのはトビラ写真にあるフィエルブリューント(Fjällbrynt)の一社のみ。そしてここも2016年にホエイチーズの生産は終了してしまった。メーカーいわく需要が減っているのが原因というが、残念な話だ。


 

右のホエイチーズはイェムトランド産。左はお隣の県、ヴェステルノールランド産。

さて、このホエイバター、ホエイチーズだが、料理のソースとして使ったり、アイスクリームの材料にしたりするのもおすすめ。イェムトランドに旅行したときに、ローカル食材屋さんで食べた自家製ホエイバターのアイスクリームの味は決して忘れることはないだろう。


 

ホエイバターとクラウドベリーを合わせたアイスクリーム。人生で一番美味しかった(かも)。

今これを書きながら調べたところでは、ノルウェーのものは日本でも入手可能なようです。ノルウェー、ゴートチーズで検索すると取扱い先がでてきます。ぜひお試しを。

Take care, Noritake


写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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