素敵なポートランダーに聞く
これからの人生を考えるヒント#07

北米 ポートランドから

サラ・ヴァン・レイデンさん

サラ・ヴァン・レイデンさん

ポートランドに暮らしながらいきいきと働く女性たちを紹介する『PORTLANDERS』。
第7回は『Notary Ceramics』を運営する陶芸家のサラ・ヴァン・レイデンさんです。
Sarah Van Raden / Notary Ceramics potter
(サラ・ヴァン・レイデンさん/『Notary Ceramics』陶芸家)

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ポートランドから1時間ほど離れた農場に生まれたサラさん。ニュージーランドの大学へ行き、ポートランドに戻り結婚、再びニュージーランドへ。ファッションスタイリストとして10年以上にわたり活躍していましたが、体調が優れないことがあり、陶芸をリハビリも兼ねて始めたことでどんどんのめり込んでいきました。そして、瞬く間に人気陶芸家となり、現在の地にスタジオ兼ショップを構えています。

彼女の陶器と同じように白を基調とした店内。カウンターの後ろには高さ違いのろくろがふたつ〜立って作業するタイプと座って作業するタイプ〜置かれています。シンプルでミニマルな形状の陶器が並び、それらと合わせるようにセレクトされたファブリックやカトラリーがディスプレイ。やさしく、あたたかい空気が流れるそのショップで、ふたりのスタッフとともにサラが迎えてくれました。

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彼女の作品は丸みを帯びた形状が特長。それは手で作られるからこそできる形。柔らかい曲線はとても自然で、見ていると静謐な印象を受け、どこか日本の「わびさび」も感じさせます。「陶器以外のものはわたしがセレクトしたものなの。世界中から。わたしの作品とよく合うもの、ものとして使いやすいものを選んでいるわ。ものづくりの姿勢としても、ちゃんと環境を意識して作られていたり、長く使えるものという観点から選んでいるのよ」囁きかけるような、しかししっかりとした口調で話し始めました。

陶芸家になった経緯を尋ねてみると「うん、そうね。わたしはファッションのスタイリストをしていたのだけど、やはり仕事はとてもハードだったわ。だんだん体調も優れなくなってね。それで週に一度、陶芸のイブニングクラスに通い始めたの。そうしたらどんどんハッピーになっていく自分に気づいたの。陶芸から自分がインスパイアされるのに気づいたの」彼女は“陶芸に恋に落ちた”と当時を振り返って表現した。それは、心を揺さぶるような出会いだったのだろう。「スタイリストの仕事はパーフェクトが求められる。きれいでクリーンな世界をつくることが目的よね。どちらかというと無機質な世界。でも陶芸というのはその対極にある。決してきれいじゃないし、土にまみれるし、とても有機的だと感じた。わたし自身、田舎で育ったというのもあるし。それが心地よかった。土に触れるという行為、ろくろに向かう姿勢が、インナーモードに入るというか精神を集中できたの。いろんなストレスを忘れて、没頭できる世界が陶芸にはあった」

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「それで中古製品を販売しているサイトでチープなろくろを買って、地下室で作業を始めたわ。子どもが寝静まった後にね。そのうち、友人がお店で扱ってくれるようになって。作品をインスタグラムにアップしていたのだけど、それを見たLAのレストランから、店のすべての食器を任せたいという話が飛び込んできたの。そのことをきっかけにスタイリストを辞めて陶芸一本で生きていく決意をしたの」陶芸を始めてわずか5ヶ月でレストランからオーダーがあり、陶芸家としてのキャリアをスタートさせることになったサラ。順調だったけれど、自分のスキルがまだまだ至っていないというジレンマもあったと言う。「わたしはまだまだ学ぶ必要があったわ。もっともっとよくできると思った」

彼女の作品には『ikebana』という名のものもあり、静けさを感じさせるフォルムに和の要素が感じられる。「そうね、日本の陶器や文化からはとても大きな影響を受けているわ。ゆったりとした時間の流れとか。お茶の作法とかもね」作品は暮らしのルーティーンの中から生まれます。「夏は庭でベリーを収穫するんだけど、ベリーを水で洗った後でざるを使うの。それで、陶器でざるがあったらいいわねと思って作品にしたら、みんなが欲しいと言ってくれた。日々の生活の中から“あったらいいな”と思うものを形にしているわ」

「フィロソフィーというものはないのだけど」彼女が仕事に対する姿勢を語る。「ビジネスを大きくしたいとは思わないわ。小さくていいので、自分の手が届く範囲で作品を作っていきたい。そしてお客さまひとりひとりに会って作品を届けていきたい。アメリカのカルチャーというのはとても速いからストレスも多いと感じる。でもここでわたしの作品と過ごすことで、ゆったりとスローになったり安心できたり・・・そういうスペースになればいいと思う。丸いものに触れていると包み込みたくなると思わない? やさしく抱擁したくなる。それが自分自身にも心地よさをもたらしてくれるの」

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ポートランド郊外に生まれた彼女にとってポートランドの魅力とは?「ここはクリエイティブがやりやすい街ね。まだそれほど地価も高くないし。大きな街だとアーティストがクリエイティブをやりながら生活していくのは難しい。ここではまだそのスペースはある。オープンマインドだし、寛容性がある」娘の誕生で考え方が変わったそう。「もともとは自分の暮らしのためにどうするか、周りからどう見えるかを第一に置いていたのだけど、子どもが生まれてからは、自分が『子どもがなりたい自分になろう』って変わったの。外のことより自分に意識が向くようになった。ニューヨークのような大きな街ではどうしても他人の目が気になるでしょう。それなりに着飾って出かけないといけないこともある。でもポートランドはそういった点では自由なの。おしゃれをしたい人はすればいいし、普段着のままの人もそれでいい。いろんな価値を認め合うのがここのいいところだと思うわ」

ブランドの名前は『Notary Ceramics』という。NOTARYとはあまり耳にしないことばなので意味を尋ねてみると「NOTARYとは『公証人』という意味なの。役場とかで認めた印にはんこを押す人がいるでしょ? わたしの作品も裏側にはNOTARY CERAMICS と判が押されている。わたしが作った証明なの」やさしい口調の中に、クリエイティブへの強い意志を感じさせるサラ。同世代の女性に向けて「若いときは難しいけれど、年齢を重ねてくると他の人の目をどこかに追いやることができる。それが自分らしくあるための秘訣かな。そのことで他人にもやさしくなれると思う」と微笑みながら語ってくれました。


Notary Ceramics

Notary Ceramics

8035 SE 13th Ave.
Portland, OR, 97202
https://www.notaryceramics.com

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