素敵なポートランダーに聞く
これからの人生を考えるヒント#09
ポートランドに暮らしながらいきいきと働く女性たちを紹介する『PORTLANDERS』。
第9回は『OLIO E OSSO』創業者のパオラ・ラモーティセラさんです。
Paola LaMorticella/OLIO E OSSO founder
パオラ・ラモーティセラさん /『OLIO E OSSO』創業者
メイキャップアーティストやプロップスタイリストとして25年以上の経験をもつパオラさんは、自分の幼い息子の肌がクリームに拒否反応を示したことで自らブランドを作ろうと決心。今までのキャリアをあっさりと捨て去り、スキンケアブランド『OLIO E OSSO』を設立。彼女が作ったバームは息子の肌にすっと馴染み、製品は人気を得ていった。製品はすべてポートランドで、手作りで作られる。まさに“Necessity is the mother of invention”(必要は発明の母)を体現した人。
ショップへの訪問を予定していたが、自宅へぜひ来てくださいというお誘いを受けて、平日のまだ早い時間にお邪魔することに。緑に覆われた閑静な住宅街に建つ家のドアを開けるとパオラさんをはじめ、ご主人、娘さんや会社のスタッフが笑顔で迎えてくれた。リビングにはターンテーブルと数多くのレコードが置いてあり、聞くとご主人はミュージシャンとか。古い家ということだけど、手入れが行き届き、とても居心地のいい場所となっている。プードルと猫がのんびりとくつろぐ空間で、まずスキンケアブランドをはじめたきっかけについて聞いてみた。「当時は女性サッカーチームのメイキャップの仕事をしていたの。女性のサッカー選手って、あまりお化粧するのが好きじゃないのね。でも、わたしの息子のために作った〜超敏感肌でクリームが合わなくって、わたしが自分で作った最初のバームね〜製品を彼女たちが気に入ってくれたの。最初はスキンケアとして始めたのだけど、徐々にカラーを付けて、女性のメイキャップ用として商品になっていったの。今では14種類になっているわ。チークにもなるし、アイブローにも使えるのよ」
すべての製品にいえるのはできるだけ少ない原材料で、最大限の栄養効果を出せるものを使うことにしているということ。保存料や安定剤、水も使っていないと言う。「みんな、わたしのことをクレージーだっていうけど(笑)、何かを始めるときには、これまでのことをすっぱりと辞めて新しいこと始めたの。でも最初、作り始めた頃はメイクの仕事もしていて、仲間にこれどう思う? って。わたしが作ったとは言わずに使ってもらって。それがとても好評でね。このメンソールは、当時のクライアントだったコービー・ブライアント(NBAの超有名選手)が気に入ってくれたわ」コミュニティを作ろうとこのビジネスを始めたけれど、あまり大きくしたいとは思っていないそう。行動のひとつひとつに責任を持ちたい。地球にやさしいこと。仲間のアーティストといっしょに仕事をすること。目が行き届くところできちんと作っていくこと。ビジネスはポートランドから始まって、シアトル、カリフォルニアと広がっている。
今までインタビューした人はニューヨークやLAから移住してきた人も多かったけれど、彼女はポートランドで生まれた。「父は芸術家で母はライター。もともとアーティストやクリエイターが多い環境で育ったの。両親もいい食事、いい友だち、いいコミュニティがあればOKという環境で育ってきた。それほど地価も高くなく、気候がいい。クリエイティブな人が挑戦しやすい土壌で育った。そんな環境で成功した人が出てきて、だんだんと他の地域からもクリエイティブな人が集まってきた。今ではちょっとエクスペンシブになったけれどね。前より、何かを始めるには難しくなってきたわね」一年ほど前に亡くなったのだけど、お父さんっ子でクルマの直し方も教えてもらったと言う。生まれ育った土地はまだ持っている。父はもういないけれど、彼のスピリットは彼女の中で生きている。「住んでいたのはキャビン。ポートランドから30分ぐらいの郊外。水もなかった。ヒッピーみたいな生活……ボヘミアンね。アーティストコミュニティの中で育った。両親にしてみればわたしは保守的だってことだけど。そういう環境で育ったから、『この世の中にないものは自分で作る』ということが育まれていったのね。だから息子のためにクリームを作ったのも当然の成り行きだったと言えるわね」
「ポートランドは食が好きだわ。大きくなってはいるけど、適度な小ささがある。歩いたり自転車で移動したりできるのがいいわ。子どもたちには強くなるように、ちゃんと地に足をつけるように言っている。娘はローラーダービー(ローラーゲームのこと)をやっている。とっても強いのよ」
わたしたち取材班のために、手作りのクッキーやケーキを用意してくれていた。キッチンに並べられたものは、彩りも豊かでとてもおいしい。オリーブオイルを使ったケーキも出してくれ、オイルは製品で使っているオイルと同じものと言う。部屋を歩きながらパオラさんが説明してくれる。「この家は築100年以上。6ヶ月前に手に入れたの。昔からいろんなアーティストが集う場所だったのよ。80年代ぐらいからね。前から知っていて、それでやっと手に入れて、また以前のようにいろんなアーティストたちが集うアーティストハウスにしたいって思っているわ。昔キャビンで暮らしていたころのようにね」はじめて訪れたのに、アットホームな雰囲気に満ちているのは家が培った歴史が醸し出しているからかもしれない。
ブランド名である「Olio E Osso」はイタリア語で「オイルと骨(基本)」という意味。人が生きていくためのベースとしての骨。自らを動かすための活動源としてのオイル。「もっと、自分自身のことにフォーカスして、よく考えてみて。自分を強くしてくれること、美しくしてくれるもの、自分らしくあるために強さをもつべき。見つけてほしい、自分で」彼女が最後に語ってくれたことは、わたしたちにとって励みとなるものだった。
Olio E Osso
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