#06 夏はいつからですか?

スウェーデン ABCブック

今回のテーマ、最初に言ってしまうと、夏はもうはじまっています、というお話なのですが、もろもろの前に、税務署にちょっと用事があった月曜日の朝8時、ストックホルム中央駅付近の様子から。 

ストックホルム文化会館前にて。

さすがに人気(ひとけ)が少ないですね。だいぶ前の話、3月ぐらいに聞いたところだとスウェーデンでは半数以上の人がすでに在宅勤務オンリーになっていて、在宅と勤務先のミックスの人と合わせると7割ぐらいという話でした。そしてその7割の人がそれに満足しているとのこと。リモートワークへの移行がスムーズにできるということは勤務先のデジタル化に対する理解度や能力が関係するでしょうし、そうした会社の給料が一定水準以上であることも想像され、ならば雇用者の住宅環境にも余裕があってなどとニュースを聞いた時考えたりもしました。ですが、それにしては7割もの人が満足、にはおどろいたものです。つまり、実際の勤務環境の良し悪し(家での作業が難しい人だっているはずです)よりも、通勤時間や業務上の優先度の低い作業時間(会議など)の短縮、ひいてはその余剰時間が自分自身および家族に向かうことに、多くの人が好意的だ、ということです。もともと家族との時間を大切に思う人が多いスウェーデンですので、当然と言えば当然なのかもしれません(カッコの中で書きますが、パートナー同士の顔を合わせる時間が多過ぎて、話すことがなくなってしまうので、無理にでも交互に職場に出かけるようにした、という夫婦も僕の身近にいましたが)。 

スウェーデンを代表する建築家5人によってつくられた国際様式の5群のビル。 

とはいえ、家だとなかなか仕事が捗らない時もあります。そんなときはオープンテラスのカフェ。僕の定番は以前にも紹介したArtipelag。 

気温は16度。日本だとまだまだジャケットがいる気温かもしれませんが、スウェーデンでは数値だけでは体感温度のあてにはなりません。同じ16度でも晴天の場合、陽の下ならばかなりのジリジリ、確実に日に焼ける気温。半袖で十分です。こうも日差しが強いとパソコンのディスプレイが見にくくてしょうがないのですが、仕方ありません。気分転換に散歩を挟みつつお仕事を。 

時々お散歩をはさみつつ。年配の方も半袖。 

さて、この日だけでなく数日にわたって気温15度をこえる日が続いたストックホルム。僕らが住む集落では、住人の多くが待ち望んでいた日が訪れました。Sjösättning(ヨットの着水作業)の日です。集落のヨットハーバーでは朝8時からお互いに協力し合いながら各自のヨットを水に浮かべていきます。 

いつもお世話になっているご近所さん曰く「僕にとってはこの日からが夏なんだ」と言っていました。暦的にはもちろん、気候的にも水温てきにも夏はまだ数週間先ですが、あの日差しを受けながらヨットの世話をしているとわからなくもありません。ああ、海に飛び込みたい。 

お昼まで作業は続けられ、ホットドックとドリンクが振る舞われます。 

じゃあ、というので、翌日、気温は12度にまで下がりましたが、早朝、息子と2人でハーバー近くの砂浜までお散歩。目的はMorgondopp(モロンドップ)、朝の水浴びです。 

砂浜からの景色。つい最近まで氷が張っていたのだけど 

水が冷たいのはもとより承知ですが、息子を背負いながらザブザブと入っていき、たえられるのはせいぜい5秒。ふたりして大騒ぎしながらすぐ浜をめざします。ところが行水後は、体を拭かずとも気温12度でも、全身ポカポカ。これが本当に気持ちいい。火照るからだを水で冷やすときの心地よさとはまた逆の、冷たい水で火照る体を手にいれる感じというか。これを3度ほど繰りかえして、早々に帰宅しました。正味15分ぐらいの海水浴です。すれ違うご近所さんたちは、僕らの濡れた髪の毛にも、水が滴るサンダルの足跡にも、さして興味なし。彼らにとっては(僕らが騒ぐほど)特別なことではないのです。 

入水前。意外と及び腰ではない息子。気温は12度。水温は。。。 

海に入ろうとおもった、僕らの背中を押したものはなんだったのか。家に帰ってあらためて思い当たるのは、刺すような日差しや、気持ち良さげに水に浮かぶヨットもそうですが、突然あらわれた夏の香りなんじゃないか。ここ最近、明け方や夕暮れ、色々なものの活動がゆったりとしているとき、そとにでて目をつぶり、深呼吸すると、どういうわけかありありと夏の景色がまぶたに浮かぶようになりました。潮風、新芽、花。具体的にどの香りとは言い難いものの、吸い込む空気の中に、うっすらとだが確実に夏の青い粒がまざっている。日本語には「〜のはしり」「〜のなごり」という表現がありますが、このようなちょっとセンチメンタルな使い方をする表現はスウェーデン語にはありません。気づいたら、あっというまに夏の粒はそこらじゅうにたくさん浮いていた、ストックホルムの5月はそんな月なのです。 

Take care. Noritake 

写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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