『白夜の夏至、夜10時の幸福の特等席』

北欧 フィンランドからの手紙

夏至祭はフィンランドの人々にとってクリスマスと同じくらい大事な二大行事です。夏至祭の金曜日は毎年祝日で、早い人では夏至祭のある週の水曜日や木曜日には都市部を離れて、湖のほとりや群島にあるサマーコテージに行きます(サマーコテージがない人や、仕事をするために街に残る人もいます)。


夏至祭のある週末はいわゆる「新じゃが」であるサマーポテトを食べたり、水辺で焚き火(コッコ)をしたり、飾りをあしらったポールの周りで踊ったり、サウナに入ったり、夏至の魔法をかけたりして祝います。夏至の魔法で有名なのは、7種類の花を摘んで枕の下に入れて眠ると、夢に未来の結婚相手が出てくるというもの 。

一年でいちばん昼が長い一日の到来を大喜びでお祝いするほど、秋や冬は生命力を奪われそうなくらいどんよりとした日が続く北欧諸国ですが、夏の間は夜になっても沈まないままの太陽を思い切り満喫すべく、昼も夜も基本的に庭で野菜や魚、肉などをグリルして食べます。 そして欠かせないのはケーキ! 

この時期は庭で読書をしたり、コーヒーを飲んだり、庭仕事をしたり、海や湖に飛び込みに行ったりと、朝も昼も外で過ごす時間がとても長いです。なんせ22時になってもこの明るさ。 

太陽がなかなか沈まないため、野菜やハーブなどもまたたく間に大きく育っていきます。たくさんのズッキーニと、旬真っ盛りのチャイブの花(サラダや蕎麦に入れると美味しいし、餃子やパスタのトッピングにも最高なのです)、庭でいちばん最初に赤く色づいたいちご(摘みたての甘さよ)。  

すべてが奇跡のよう。夜22時の幸福の特等席です。 

夏の夜、ほのかに暗くなるのはたった4時間だけ。フィンランド北部のラップランドに行けば、本当に一日中夜はやって来ません。深夜2時になってもずっとほのかに明るい空を見ていると、なんだか宇宙に祝福されてるような、不思議な高揚感に包まれます。オーロラを見た時とは違う、静かな衝撃に心が跳ね躍るよう。 

こんな世界に包まれて暮らすと、人生の意味や目的についてシンプルな答えがわいてきます。社会的成功や金銭的な豊かさは、私の本当に欲しいものじゃない。与えられた命を自分の好きな形で全うすること、自然と共に生きていくこと、創造する喜びを感じること、愛する人々の笑顔を見ること。慎ましくて良いし、変化が乏しくて穏やかでも良い。誰かに羨ましいと思われることが何もなくても良い。幸福とは、すなわちゆっくりと光を見つめること、白夜の空に身を包まれること。 

写真・文 : 吉田 みのり

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