番外編(2)パリからの手紙

北欧 フィンランドからの手紙

パリはやっぱり街歩き。からっと晴れる青空、街路樹がいっせいに花開いても、ぼんやりと灰色の曇り空の下、しっとりと雨に濡れても、周りのものすべて美しく映えさせる様式美を備えた建物が同じ背丈で並ぶ街を歩く。早朝から漂うパンがこんがりと焼ける香りや、路上で天性のリズム感を惜しげもなく披露する太鼓叩きの奏でる音楽に身を包ませると、どうしたって心がはずむ。鳥の鳴き声だって華やかに聞こえるから不思議だ。

1969年に発表された曲で、誰もが知るであろう「オー・シャンゼリゼ」を大学のフランス語の授業で習った時、観光客としてパリを訪れた時に肌で感じる、街全体に流れるあの特別な高揚感をとてもよく表している歌詞だなと唸ったっけ。

Aux Champs-Elysées, aux Champs-Elysées

Au soleil, sous la pluie, à midi ou à minuit

Il y a tout ce que vous voulez aux Champs-Elysées

シャンゼリゼにて、シャンゼリゼにて

太陽の下、雨降る中、正午でも真夜中でも

シャンゼリゼにはあなたが欲しいものが全てある

実際に住んでみたのは20代前半から後半にかけてで、学生として生活する分際ではレストランに出入りしたりすることもあまりなく、ましてやシャンゼリゼ通りを歩くこともほぼなかったけれど。意味もなく鬱蒼とした気分になったことも、メトロでぼけっとしていたらポケットに入れてあった40€を知らない間に盗まれていた苦い思い出もある。でもやっぱり、住んでいたあの日々から10年以上経て、ヘルシンキというヨーロッパのはじっこからパリに再び戻ると、やはりその華やかさやドラマティックな歴史、人々の活気に魅力を感じないわけにはいかない。

そういうわけで、去年の終わりから今年のはじめにかけて3週間ほど滞在していたパリに、夫のお誕生日を祝うための小旅行という名目で桜が咲く頃に戻ってきた。前夜は深夜遅くまで仕事をして、早朝に飛び起きて氷点下のなか空港に向かい、たどり着いたは楽園。言い過ぎと思うなかれ、この時期まだ雪にまみれるフィンランドの民にとってパリで見る光はあまりにまばゆいのです。

前回の旅でナポリからパリに着いた夜、パリの街の整然とした建物や広い道路を目前としてナポリの下町との大きな違いに驚いていた夫に「19世紀半ば、つまり150年ほど前まで、パリの街もナポリの下町みたいに建物がひしめき合って小さくて暗い道が縦横無尽に走っていたんだよ」と話してますます驚かせたことをきっかけに、夫の「パリへの興味」がだんだんと増していったのをしめしめと好機にとらえた私は、第二帝政期にジョルジュ・オスマン知事が取り組んだ都市改造計画「パリ改造」の歴史からはじまってフランス革命、ルーブル美術館の歴史、セーヌ川の橋の歴史などパリにまつわる歴史をさかのぼって数週間にわかり説明し、見事に夫をパリの魅力のトリコに仕立て上げることに成功。滞在していたマレ地区にはパリの歴史を一通り学べる「カルナヴァレ博物館(パリ歴史博物館)」もあるし(入場無料!)、パリは道や公園、広場のすべてに名前がついていて、歴史上の人物にちなんだ名前も非常に多いので、説明することには事欠かないのも良かった。私の溜めに溜めこんで放出する先がなかったウンチクに目を輝かせて耳を傾けてくれていた夫、ありがとう。

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街歩きのほかに欠かせないのはやっぱり食。前回も行ってすごく良かったお店「Cuisine」、「Le Bistrot Paul Bert」、「Haikara」は外さず、そして今回新しく開拓したのは「Café du Coin」、「Le Comptoir du Marché」、「Le Siffleur de Ballons」など。

現地の同業者と会って話して情報交換したり、実際に働いている姿やお客さんとインタラクションを取っている様子を見たりして、毎回勉強になって刺激的だし、とても励みになる。私たちのお店はまだまだこれからだけど、まだまだだからこそ伸びしろもある。そう確信したりもした。

たった5日、されど5日。居場所を変えて、パースペクティブを変えて、気分を変えて。小旅行をすると、今まで見えなかった世界がふいに顔を出し、浮かんでこなかった感情が浮かんでくるから不思議だ。世界は広くて、わたしの世界はとっても狭い。でもその世界は実はがっしりと繋がっている。その繋がりを大切にしていきたい、そう思えるのが小旅行の醍醐味のひとつなんだと思う。

文 : 吉田 みのり

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