『「自然享受権」という考え方ときのこ狩り』
フィンランドには、他の北欧諸国と同じように「自然享受権」という権利が存在し、法律で認められています。フィンランド語ではJokamiehen Oikeus(ヨカミエヘンオイケウス)、フィンランドの第二公用語であるスウェーデン語ではAllemansrätten(アッレマンスレッテン)といい、英語にするとまさしくEveryman’s Right(エブリマンズ・ライト)、つまり「すべての人のための権利」という意味になります。
この権利は、自然に敬意を払い、土地の所有者に迷惑をかけない限り、自然の恵みを誰もが楽しむべきだという考えに則っており、住民だけでなく旅行者も含め、誰もが自由に森の中へ入ってきのこやベリーなどを収穫したり、湖や川に入って泳いだり釣りをしたり、短期間のキャンプをしたりすることができることが保障されています。
この秋は暖かいので、先週もきのこ狩りに行ってきました。朝いちばんに森に入ってきのこを採るのは、私のいちばん好きな朝の過ごし方かもしれません。フィンランドには、森や沼地、公園や家の庭、道路のわきにまで数百種類もの野生のきのこが自生しています。そのうち採食に適したものの年間総産出量は100万トン、50キログラム/1ヘクタールと推測されています。
日本ではイタリア語で「ポルチーニ茸」、または英語やフランス語で「セップ茸」と呼ばれる、ぷっくりとした形が特徴のヤマドリタケをはじめとしたイグチ科のきのこ、ミルク・キャップという名前で総称されるベニタケ科のきのこ、映画『かもめ食堂』にも登場する、黄金のきのこ「カンタレッリ(日本語ではアンズダケ)」、じょうごのような形が特徴の香り豊かな「スッピロヴァハヴェロ」はフィンランドで自生するきのこの代表で、秋の味覚として国民から愛されるきのこです。
夏の中盤から秋にかけて、時間が取れればすぐに森に出かけてきのこ狩りに夢中になる人々も数多くいます。フィンランドでは小学校や中学校で「森と生きる人としての知識」としてきのこの見分け方などを習うこともあるといいます。フィンランドに生えているきのこのうち、およそ50種類のものが有毒で、その中でもベニテングダケなど5種類のものは死に至る可能性があるほど猛毒であるため、正しく見分けられる能力が必要とされます。7月後半から11月中旬までにフィンランドへ旅行する人は、きのこ狩りに行くチャンスですが、初めてから3回目くらいまでは、土地をよく知る地元の人や、きのこに詳しい人と一緒に行くことを強くお薦めします。慣れてきたらヘルシンキのアカデミア書店などに何種類か売っている、きのこ図鑑やきのこの本などを片手にきのことにらめっこしてみるのも良いでしょう。
写真・文 : 吉田 みのり
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