番外編 (1) 南イタリア・ナポリからの手紙
休暇を利用して南イタリアはナポリに旅行している。ナポリはキャラが濃い。
数えきれないほどの洗濯物が垂れ下がる窓がいくつも連なるほの暗くて細い路地、すり減った石畳。まるで一大事が起こったかのような調子でまくし立てるように世間話をする地元の人々の隣には二人乗りのスクーターがクラクションを鳴らし、角からは美味しそうな玉ねぎとニンニクを炒めている香りが漂ってくる。初めて足を踏み入れた者は、その独自の世界にめまいがするくらい。
フィンランドの冬は真っ白か真っ暗のどちらかで、とてつもなく静かであることと比べて、冬であってもナポリは明るい。太陽が頭の真上にくる時間帯はまぶしさで前がよく見えないほど。コバルトブルーの海は透明で優しく波を打つ。ヘルシンキも港町だけど、この時期の海はカチカチに凍っていて微動だにしない。
ナポリではヤシの木やぷっくりと分厚い葉を持つ大きな木々が街を賑やかに飾り立て、それに負けじと背の高い塔や石でできた荘厳な教会や規模の大きい建物が歴史の深さと豊かな文化を掲げて誇らしげにそびえ立つ。大きなレモンやオレンジがたわわになる木も街中に見かける。街路樹が柑橘類。フィンランドではありえない光景だ。冬でもこんなに空が青いのだから、夏に来たらどうなっちゃうんだろう。いつかは夏に来たい、そんな期待を持たせてくれる冬のナポリ。
古代ギリシア人によって建設された植民市として生まれたナポリの名前の意味はNeapolis(ネアポリス=「新しい街」)。『食べて祈って恋をして』では「食べる」のテーマの舞台とされたナポリには、世界で人気を博すナポリタンピザやほか、魚介料理や野菜料理もたくさんある。パスタエファジョーリ(豆入りパスタ)やフリアリエッリ(菜の花に似たちょっと苦みのある野菜)がとても美味しく、シンプルながら野菜の旨味を引き出す極上の味付けに感激した。料理の一つ一つにプライドがあり、哲学がある。それも、何千年にもかけて育まれたとびきりの哲学。
ナポリの人々は人情深い。「下町っぽい」とか「ナポリは大阪」と形容する人も少なくない。カフェでエスプレッソをすする朝には、常連客が現れて挨拶する様子を眺める。言葉は少ししか分からないけれど、人間味溢れたその会話に人生の希望を見つけたりする。日常生活にこそ宿る輝きや活気。ナポリは人間の街だ。
言葉が話せないけれど賢い動物である馬はエネルギーでコミュニケーションを図るという話があるが、ナポリの人々は言葉も巧みに使うけれど、エネルギーでもコミュニケーションをしているように思う。エネルギーを見せ、交換することはとても大事なこと。エネルギーこそがその人の正直な部分を表しているから。誰かとコミュニケーションをする時に自分の持つエネルギーや性格をあえて隠すことは、何か隠しごとがあるのではないか、後ろめたいことがあるのではないか、と思われても仕方ない。そういう考え方に触れて、コミュニケーションの在り方を根本から考えさせられた。
美しくカオスな街、情緒深く気前の良い人々、豊かでシンプル、本質をついた食、遠く遠く昔から受け継がれた建物や宗教・考え方、魅力的なストーリーが溢れた歴史。どの角度から切り取っても特別でとってもユニークな土地がナポリだった。
文 : 吉田 みのり
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