『クリスマスの時期に食べるお菓子』
12月も中盤に突入しました。クリスマスまで本当にもうすぐですね。
日本のクリスマスは「恋人と過ごすロマンティックな日」、「ケンタッキーフライドチキンやピザやブロッコリーとミニトマトでクリスマスツリーやクリスマスリースを模したサラダがテーブルに並び、山下達郎やジングルベルを歌う日」というイメージが流布しているのですが、北欧・フィンランドのクリスマスはキリスト教伝来以前から土着の文化として存在した、古代ヨーロッパのゲルマン民族やヴァイキングの間で行われた冬至のお祭り「Jul・ユール(Joulu・ヨウル)」が伝統の根幹となっています。
「冬至」は一年のうちでいちばん日が短い日ですが、この日を迎えたということは太陽が再び力強い生命を持つということ。すなわち、かつては新年を迎えたという喜びを人々にもたらしていました。作物があまり育たない寒冷の地で、長くて寒い冬を乗り越えるための食物を収穫できた喜びを祝うものが収穫祭であれば、冬の終わりと春の訪れを祝い、大切に貯蔵してきた食物を一気にテーブルの上に並べてお祝いし、暖かな日の到来を願うのが「ユール(ヨウル)」、現在のクリスマスのはじまりとなったお祝いでした。
この時期のフィンランドでよく食べられるお菓子のひとつが、Joulutorttu(ヨウルトルットゥ)です。Jouluはフィンランド語で「クリスマス」という意味で、torttuは「タルト」という意味ですが、パイ生地にプルーンやリンゴジャムなどを乗せて焼くお菓子なので、サクサクのパイの食感です。手裏剣に見えますが、「お星様」を模しているそうです。
この時期に友達や家族の家に遊びに行くと必ずと言っていいほど用意され、カフェやパン屋さんの店頭にも並びます。
またクリスマスパーティーなどの機会には、みんなで集まって一緒に作ったりもします。
ジャムはあんずやいちごなど好きなものを乗せます。伝統的には、夏や秋に庭で採れたベリーやリンゴを大量保存していくために手作りしたものを使用します。フィンランドのブルーチーズ、 Aurajuusto(アウラユースト)を加えたりする家庭もあります。
ヨウルトルットゥのお供はグリューワイン、Glögi(グロギ)。16世紀から北欧諸国でクリスマスの時期の伝統的な飲み物として飲まれてきました。レーズンやアーモンドを入れて飲むのが習慣で、クローブ、シナモン、カルダモンなどスパイスたっぷりなので、飲むと身体が一気に温まります。ワインといっても、こちらのものは基本的にジュースのようにアルコールが含まれていないものがメインなので、飲むときにグラスにひっそりとラムやウォッカを注いで、Glögiで割って飲むという罪深い飲み方をする人も多いです(私もその一人)。香り高い風味、赤い色合いが特別感を盛り上げてくれます。
一方で、Lussekatt(ルッセカット)というサフランパンを焼いて食べる習慣がある人たちもいます。こちらは隣国スウェーデンでこの時期に食べられる焼き菓子です。家族も含めて私の周りにはスウェーデン系フィンランド人の人々が多いので、伝統的にこちらのお菓子に慣れ親しんでいる人も数多いのです。12月13日のルシア祭(光の聖人・ルシアを祝う祭)のあたりに食べられる黄金色のパンは、ほんのり甘く、高級品であるサフランやバターがたっぷり使われています。
Lussekattの意味は「ルシアの猫」。北欧諸国ではかつて、冬至には死者の霊、悪魔、魔女などが大挙して現れると信じられていました。一説によれば、それらの冬の魔物や霊を追い払う生贄として猫などの動物が犠牲にされていたことが由来で生まれた焼き菓子とのこと。地方によって形が異なり、車輪や人や動物の形など、20以上の種類があるようですが、いちばんよく見るのがS字型のものです。
そしておなじみ、ジンジャーブレッド!フィンランド語ではPiparkakku(ピパルカック)、スウェーデン語ではPepparkaka(ペッパルカーカ)といいます。子どもがいる家庭でも大人だけの家庭でも、この時期はキッチンに集まって、またはリビングルームの大きなテーブルでみんなで思い思いの形のジンジャーブレッドを作ってデコレーションを施します。買うこともできるのですが、自分たちで作ったお菓子はやっぱり思い入れが違います。でもフィンランド人のほとんどの人々は口々にこう言います。「焼いたジンジャーブレッドより、焼く前の生の生地が美味しすぎてついついつまみ食いしちゃうんだ!だからつまみ食い用の生地もあらかじめたくさん用意するよ」
写真は、張り切りすぎてジンジャーブレッドでイグルーを作るボーイズたち。
「北欧、フィンランドからの手紙」の過去コラムはこちらから↓
https://p.northmall.com/category/letterfromfinland/
写真・文 : 吉田 みのり
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