『止まったように見える世界の中で、光を求めて』

北欧 フィンランドからの手紙

3月ももうあっという間に終わりに近づいている。

時間が進むペースが、とにかく速い。

世界はパンデミックの後、時が止まったかのように見えるのに。

例年にくらべて、ゆっくり進むようにも思えるのに。

3月20日は、春分点だった。昼(日の出から日没まで)と夜の長さがほぼ同じになる日。これからは6月末まで、どんどん日が長くなっていくのだ。なんて素晴らしいこと。

ところで、今年は「新年の抱負」というものを、意識して暮らすようにしている。自分の大切にしていることは、魂を込めてやる。それだけ。それが今年の目標だ。言うは易く行うは難しだが、こればっかりや譲れないというところでは必ずこのことを思い出すようにしている。

経営している居酒屋ポップアップのプロジェクトで、3月は4週間連続で「日曜日のポップアップショップ」を開いた。イベント名は以下の通り。

1週目「おにぎりの日曜日」(おにぎり、唐揚げ、エビフライ)

2週目「おうちで居酒屋」(餃子やチキン南蛮などの居酒屋メニュー6品)

3週目「お好み焼きの日曜日」(お好み焼き、椿おにぎり、みたらし団子)

4週目「どんぶりの日曜日」(ローストビーフ丼、海鮮丼、ちらし寿司、かきあげ天ぷら丼)

ヘルシンキをはじめ、フィンランドの多くの土地では3月8日からレストランやバーの通常営業停止命令が出て、レストラン業界はテイクアウト競争を繰り広げている。ほとんどのシェフやソムリエは仕事を失い、労働組合や国家からの失業給付金を受けて生き延びる暮らしを迫られている。そんな中、日曜日という他のレストランが休む日を選び、ポップアップショップをしてきた。今のところ全て前日までに予約完売を果たしている。また、仕事を失って以来、料理をしたくてウズウズしている友達に仕事と給料を提供できていることがとても嬉しい。

フィンランドに来て数年は、就きたい職に就くことがなかなかできなくて(履歴書を送った会社は100以上にものぼる)、お金もなくて、自信も根こそぎ引っこ抜かれて(引っこ抜かれるほど弱い根っこだったのだけれど)、抜け殻のような日々を暮らしていたような気がする。もちろんたくさんの友達に出会ったり、料理をしたり文章を書いたり、カミーノ巡礼に行ったりとそれなりに楽しく過ごしていたけれど。そんな自分がまさか、誰かに仕事を与えることができる人間になるとは。人生何が起こるか分からないけど、つらい時期こそ次のチャンスのために種をまいたり、水をやったりすることが大事なのだとつくづく実感する。



写真・文 : 吉田 みのり

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