『ヘルシンキの今と昔、フィンランドの今と昔』
昔の写真を見るのが好きだ。
今となっては消えてしまったけれど、かつては皆が送っていた暮らしや見ていた風景。
炊事の方法や住居のかたち、ファッションや価値観。
同じ土地、同じ道、同じ森という空間にいるのに、生きている時が違うばかりに全く違うものがそこに存在していたということが本当に不思議な気持ち。そして変化が大きければ大きいほど、さみしくもあり、同時に希望ももらえて、アンビバレントな気持ちになる。
Helsinki Ennenという、ヘルシンキの昔の写真や地図が無料で閲覧できるサイトがあるのだが、そのサイトへ行くと、面白くてつい何時間も写真を眺めて夢想して過ごしてしまう。
たとえば、今日のIso Robertinkatu(ヘルシンキの中心地の道の名前)。
1900年頃の同じ道の写真。
今朝のジョギング後のAlppila。
1915年の同じ場所。
2021年2月。
1897年の同じ場所。
編集に携わっていたお友達から贈ってもらった、フィンランド人の著者トンミ・キンヌネンの小説『四人の交差点』(フィンランド語のタイトルは“Neljäntienristeys”)でも、戦争によって貧困を余儀なくされた市民の暮らしや、爆撃を受けて熱でぐにゃぐにゃに曲がった釘を真っすぐに伸ばして復興後の家の再建に再利用せねばならなかったことや、冷蔵庫やシャワーがなかった頃の生活などを垣間見ることができる。本自体は4人の人生を通して100年ほどの年月が描かれており、小説なのでドラマティックではあるものの、住まいや暮らし方、昔のフィンランド人が大切にしていたものなどについて想像をめぐらすことができて、そういう意味でもとても読んでいて楽しかった。
フィンランド国立博物館もフィンランドの歴史を一通り学べる博物館。昔の農耕器具や暮らしの道具を見て、極寒のなかで生き抜いてきた知恵と根性に想いを馳せる。
これは70年代の乳製品やバターなどのパッケージデザインの展示。かわいい。
フィンランド各地にも昔の伝統用具や住宅様式などを鑑賞できる美術館がある。ヘルシンキから北西へ230kmほど行ったところにあるミッケリのSuur-Savo Museoでは、ミッケリやサヴォ地方の歴史文化的物を展示していて、この美術館で見た昔の人が編んだ白樺の籠(塩入れや様々な用途に使う)や魚釣りのために作ったネットや浮き、バター作りのための道具は忘れがたいほど印象的だった。
昔があって今がある。今があって未来がある。わたしたちは今、現在にいながら、未来の人々にとっての過去にいる。いつかは老いて、この世から去り忘れ葬られる。そんなことを想うと、ちょっと切なくなる。そして、今をひたすら生きなくてはと思う。便利な世の中で、忘れがちなことを思い出す。それはいつだって虚栄や名声とは遠いところにある。そんなことを考えさせてくれる写真や美術館はわたしに生と死を見つめさせてくれる、大切な存在だ。
写真・文 : 吉田 みのり
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