#04_X:Xylitol(キシリトール)

スウェーデン ABCブック

Xylitol  
キシリトール(白樺の砂糖) 
名詞 
キシロースから合成される糖アルコールの一種天然の代用甘味料として知られ、最初はカバノキから発見されギリシア語  Xylon(木)から命名された。 


 

今回はXで<Xylitol キシリトール>なのだが、色々と前書きが必要な回となっている。ごめんなさい。最初にくどくどと言い訳が続きます。 

まずひとつ目。そもそもだが端的に言って、Xで始まる単語がスウェーデン語にはほとんどないので、本稿はかなり苦し紛れであるということ(この問題は「スウェーデン A – Ö」の企画の時からわかっていて、Xの他に、C問題、Q問題、Z問題がある)。どの言語でも言えることだが、アルファベットによって使用頻度に大きな偏りがある。スウェーデンにはSvenska Akademiens ordlista(通称SAOL)というスウェーデンアカデミーによって数年おきに更新される辞書があるが、その中にXの単語は派生後含めわずか27語。しかも一瞥して僕がイメージできたのはXylofon(木琴)とXylitol(キシリトール)など数個。あとは調べても、およそスウェーデンを表現できるほどの特殊性はないものばかり。ゆえに今回の単語はこじつけじゃないのか、と思われるかもしれないが、ご指摘のとおりです。ひとつご容赦願いたい。 

もうひとつ、それはこのキシリトール。僕が実際におみやげとして重宝していて、本来であれば「スウェーデンのおみやげ」で登場させたいモノなのだけれど、上記のとおりXの単語がなく、どうしようかというわけで、キシリトールについてはおみやげとしてまたご登場いただく可能性が大です。これもまたひとつご容赦願いたい。 

最後に、気軽なコラムなのに似つかわしくないことを書くが、このキシリトールの使用に関してはぜひご自身の判断においてお願いしたい。この記事が使用を奨励しているわけではありません。僕は実際に友人知人におみやげとしておすすめしているわけだが、それは日本では入手が簡単ではなく、物珍しい(※)からであって、僕自身が日常的に使った結果判断している、という意味ではない。実際に使ってもいないのに、というお叱りもあるだろうが、キシリトールはおよそ80年近い歴史を持ち、スウェーデン(および多くの国でも)で一般に販売されている。また、そのメリット・デメリットについても研究が数多くおこなわれ、情報も広く公開されている、という点で問題はないと考えている。調べた限りでは、常識的な使用量を守る限り、そして犬をのぞき、有効な砂糖の代替品のようだ。もう一度繰り返すが、ここで書いていく内容について、特にその健康効果について、は僕が読んだり聞いたりしたこと以上の、つまり実際僕の身に起きた効果を示すものではないことをお断りしておく。 


 

こちらがキシリトール。グラニュー糖と結晶の形が違うように思うが、見分けられるか微妙。 

ふう。さて、前置きが大変長くなったが、少し歴史を紐解いておこう。キシリトールという物質が初めて発見されたのは1891年(ドイツのE・フィッシャー教授とフランスのM・G・ベルトラン教授による)にまでさかのぼる。だが、自然界での存在を確認し、抽出が可能になったのは1943年。第二次世界大戦下で砂糖不足に陥っていたフィンランドにおいて、白樺から抽出、甘味料としての利用を可能にしたのが最初だ。以降フィンランドがキシリトールの普及に重要な役割を果たしていく(ちなみに日本でも有名な虫歯予防の効果もフィンランドが1970年に研究を開始、世界に先駆けてキシリトールガムを発売したのは1975年だ)。WHOおよびFAOによって食品としてキシリトールの安全性を確認されたのが1983年で、1988年以降、北欧諸国をかわきりに各国の歯科医師団体によるキシリトールの奨励がヨーロッパ各国で広がっていった、とされている。 

以上が簡単なキシリトールの歴史だ。お察しのとおり、なぜ「スウェーデン A – Ö」なのか、キープレイヤーはフィンランドではないか、と言われればその通りで、X問題は難しいのです、となってしまうのは前述のとおり。ただひとつだけ、トリビアルだが強調しておきたいことがある。それは確認できる世界最古のチューインガムは1993年にスウェーデン、ヨーテボリの北にあるオールストで発見された白樺の樹液だ、ということである。なんと10000年前のポイ捨てなのです。 

書籍「世界で最も古いチューイングガム?」。歯形が見えるだろうか。 

それはさておき、日本にくらべ、スウェーデンではキシリトールを目にする頻度がかなり高い。ガムなどはもちろん、甘味料そのものとしてだ。健康食品店だけでなく、スーパーマーケットや薬局でも見かけ、Björksocker(ビョルクソッケル、白樺砂糖)として親しまれている。砂糖売り場の棚でキシリトールの文字をみつけそこに白樺と書かれているのを見たとき、へえ、そうだったのか、と驚いたのを覚えている(※)。まあそもそもこの国では砂糖の種類(精製度合い)や代用甘味料の選択肢が多い気がする。これを書くに当たって近所のスーパーマーケットに行ってみたところ、糖質系甘味料ではココナッツシュガー、メープルシロップ、アガベシロップ、ナツメシロップ、ざくろシロップ、ソルビトールなどなど。非糖質系でステビア、さらに人工甘味料を入れたらまた数種類あった。 

ところで味自体はどうか。なにかに混ぜてしまえば甘味以外の特別な風味は感じることはない。ただ、粉末そのものを舐めてみると、味覚とは別なのだがスウッと揮発するような冷たさを感じるとおもう。 

ココナッツの砂糖。パームシュガーの一種と言っていい。

ざくろのシロップ、ナツメヤシのシロップ。

アガベ(サボテン)シロップにはいろいろなフレーバーも。 


 

最後にキシリトールのメリットを記しておこう。 

1)カロリーが低い 
普通の砂糖との比較で40%もカロリーが低い。 

2)低GI値 
GI値とは食品が血糖値を上昇させる速さを表す単位。普通の砂糖(GI値60〜7)の10%程度。 

3)歯にいい 
口腔内の細菌による酸の発生をおさえ、また虫歯菌の一部の代謝を阻害することから虫歯予防に効果がある。 

4)利用が簡単 
甘さの比率が通常の砂糖と1対1なので、計算なしに普通の砂糖と同じように利用できる。 

いくつかのデメリットもある。犬はキシリトールを分解できないので危険。また、キシリトールを含むすべての糖アルコールは過剰に摂取するとお腹をゆるくする効果がある。また、今回せっかくだから使ってみようと思い、焼き菓子のレシピを探してみたが、キシリトールは酵母の餌にならないため、イースト菌などとの組み合わせは良くないということだった(少量の砂糖を入れるか、代わりにベーキングパウダーを使おう)。 

バター、バナナ、アーモンドパウダー、ココナッツパウダー、白樺の砂糖、ココア、ベーキングパウダー、そしてバニラパウダー。小麦粉は未使用。 

お味は、うーん、まあまあ。白樺の砂糖のせいではなく、僕の腕の問題だ。 


 

もし誰かがFinland A to Zを書くことがあればキシリトールは完璧な題材だろう、ということで、今回はこの辺で。 

現在はさまざまな植物(果実、野菜、樹木など)の繊維からも生成が可能になっており、キシリトールはわずかながら日本でも入手することができる。しかしその多くはトウモロコシ由来であり、まだまだ白樺の砂糖は日本では珍しいのだ。 

Take care. Noritake 

写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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