#05 F:Fika(フィーカ)
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Fika
フィーカ
名詞、動詞
コーヒーまたは紅茶をのむこと。焼き菓子などをつけることもある。スウェーデン語のコーヒー(Kaffee)の逆さま読みが語源とされているが、どの時代や地方で始まったかには諸説ある。
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日本でもここ数年で認知度が高まったスウェーデン語のひとつ、フィーカ(Fika)。あなたはこの言葉に何を思い浮かべるだろうか。コーヒー。シナモンロール。かわいいカップ&ソーサー。晴れの日に陽の下で?それとも窓辺で雨を眺めながら?誰と?友達と?一人で?
フィーカとはなんだろう。
ところで、言葉とは本当に不思議だ。学生時代、フランス語には「安い」を意味する単語がない、ということを聞いて驚いたことがある。では「安い」という概念がないのか、といえばもちろんそんなことはない。その場合は「高くない」と言えばいいのだ、という。では「高くない」しかない世界で「安っぽい」というときにはどうしたらいいのか。何が言いたいのか。それは「フィーカ」が何を意味するのか、ということに関係している。
ところで、ためしにスウェーデンの人に、フィーカって何、と尋ねると、誰もが言葉に詰まって「いい質問ね(Bra fråga!)」といいながら少し困った顔をする。あんなにも毎日幾度となく口にする(僕だってスウェーデン語を勉強しはじめてかなり初期に覚えた)単語でありながら、彼ら彼女らがフィーカの意味をすっきりと定義できないことに少しおどろく。
そこで、僕は消去法よろしく、いくつか質問をはさんでいく。塩味の食べものがあってもフィーカというか。ブランチは。寝るまえのハーブティーは。30人ぐらい集まってもフィーカというか。しかし答えは人それぞれだ。わかったことはフィーカの定義は時代とともにゆるくなっている、ということ。たとえば、フィーカでビールはより一般的に許容されつつあるように思う(もっとも単語の意味や文法が時代とともに生活スタイルの変化などにあわせて変わるのは当然といえば当然だ)。
さあそこでもう一度、フィーカとは、と尋ねる。すると、フィーカの形式の話からすこしずつフィーカの意味するところに移ってくる。たとえば仕事や勉強の合間の休憩、リフレッシュ、そんなふうに。そして最終的に、削ぎ落としていって残ったモノはこれです、というように、多くの人がある言葉を口にする。それは「つどう」という表現だ。
フィーカとは集うこと。ひとりでコーヒーを飲むのはフィーカとは言わない、そう答える人もいたし、おいしいコーヒーやシナモンロールがあればそれはもうけもの、といった声もあった。大事なのは口にするものではなく、時間や場所でもない。ただ向かいに座る人だったのだ(ちなみに、意図的にここまでの写真はほぼ、ひとりでのコーヒーシーンにしたのだが、これらはフィーカではない、そう感じていた読者の方はいただろうか)。
フランス語に「安い」という単語はない、という話にもどろう。では「安っぽい」や「お買い得」はどうしたらいいのか。それでは日常で困るだろう、と。ご存知の方もいるかもしれないが、そのいずれも別の単語(または表現)がある。フランス人の友人は「安い、がなくたって、そっちを使えばいいじゃないか」そう憮然と答えた。
「そっちを使えばいい」そう言われた時、僕が思ったのは、なるほど、あるモノが安かった結果「安いね」と言うことよりも、それをどう僕が感じ、どういう評価を与えたのか、そしてどう伝えたいのか、つまり「お買い得だね」ということこそがコミュニケーションを豊かにするのではないか、ということだった。単語の「安い」がなかろうが「お買い得」があればかまわないし、むしろその方こそが口にする意味があるのでは、ということだった。
言葉には、ただ事実を記述するような<確認的>なケースだけがあるのではなく、語ることがそのまま、行為することになるような<遂行的>なケースもある、と言ったのは哲学者のジョン・L・オースティンだが、僕は最近こうしたことを思いながら、日々口にしたり耳にしたりする「フィーカ」または「フィーカをする」という言葉に向き合っている。これらの言葉の意味するところは何なのか。しかしそれは、何を指し示しているのか、というよりも、どう伝えたい思いがあるのか、どういう行為となっているのか、ということだ。そして今のところ僕は、うっすらとだが、もしかしたらスウェーデンの人たちにとって「フィーカをする」は「あなたのことをもっと知りたい」ということなのかもしれない、と感じているのだ。
Take care. Noritake
写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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