#01_A Arktiska cirkeln(北極圏)

スウェーデン ABCブック


 

Arktiska cirkeln

subst.

Arktiska cirkeln är den yttersta plats – räknat från Nordpolen – där solen inte går ner vid sommarsolståndet samt inte går upp vid vintersolståndet. Norra polcirkeln ligger på 66˚ 33' 38" N. (Wikipedia)

北極圏

名詞

北極点を中心に広がる地域で、1年のうちで少なくとも1日太陽の沈まない日と出ない日がある地域のこと。実際には北緯66度33分以北となる。


「スウェーデンA-Ö」の初回なので、取り上げるアルファベットは順番どおりにAにしよう。そしてAではじまる単語はArktiska cirkeln、北極圏。僕らの今も続くスウェーデンの旅の始まりの場所だった、という意味でも、初回に相応しいかもしれない。

北極圏、というと遠い世界に聞こえるだろうか。白いクマやペンギンがいて、電気なんか通っていないんじゃないかと思うだろうか(渡航前、実際に両親にそう心配された)。そういう地域もある。しかし、もちろんそれだけではない。僕らがスウェーデンにわたり最初に住んだ街、北極圏のKiruna(キールナ)はスウェーデンで最も北に位置し、北スウェーデンで最も大きな(面積を持つ)都市だ。本格的に都市化されたのは19世紀末、そのずっと以前より確認されていた巨大な鉄鉱山の発掘作業が本格化したときにさかのぼる。つまりあえて言えば、できてまだ100年ほどの比較的新しい近代都市なのだ。訪れると多くの住宅が機能主義に影響を受けていることに驚くかもしれない。現在もこの鉄鋼業を中心に、極地の特性を生かした観光と宇宙研究の分野でスウェーデンの中でも存在感のある都市である。

僕らはこのキールナに2007年の1月、太陽がほとんど姿を見せない極夜、から翌年の8月、反対に太陽が全く沈まない白夜の季節過ぎ、まで滞在した。野火が走るようなオーロラも、蛍光塗料が墨汁の中で渦を巻くようなオーロラも見た。北ヨーロッパからロシアにかけて生活する少数民族サーメの文化にも触れた。自然保護区でのトレッキングや、小屋の中で薪をたき煙と熱を充満させるサウナにも入った。教会でのコンサートや演劇など、小さなものまで含めると毎夜のように何かしらのイベントがあり、それを探しだして誘ってくれる友人たちがいた。実際滞在したのは8ヶ月だったけれど、その月日を味わった体験で割ると計算が合わない、と思うほどの濃密さだった。

キールナのような心の拠点を、僕らはスウェーデンにいくつか持っている。そしてそこを拠り所にいろいろな街へ足を伸ばす。そうして訪れた素敵な場所は北極圏の中にいくつもあるけれど、Jokkmokk(ヨックモック)だけはここで紹介しておきたい。これまでも、そしてこれからも何度も訪れるだろう街だ。

ヨックモックといえば、毎年2月に開催されるウィンターマーケットが有名だ。サーメの人々の交易の場として開催され、400年以上の歴史がある。今ではかつてマーケットが持っていた物資交換という実質的な役割は減ったものの、現在もなおサーメの伝統文化に関する展示や講演など、文化継承への役割は増すばかり。

トナカイの肉や毛皮、コーヒーに入れて食べるチーズ、サーミの手工芸などを見ながらマーケットを歩くと、民族衣装(コルト)に身を包む人々とすれ違う。それぞれの地域ごとに特色があり、お互いにどの場所出身かがわかるのだという(男性ふたりの写真はKautokeino村)。青白くかがやく世界で見るコルトの美しさに目を奪われる。

コルトもそうだが、伝統的な手仕事のクオリティに圧倒されることもしばしばだ。何よりも、こうして実際に身につけられたモノたちは、売り買いのためではないモノが持つ独特な力強さがある。自分のためだけに作られたもの。自分の分身。または自分が家族から引き継いだモノ。そしていずれ家族に託していくモノ。家族の分身。


残念ながら2021年はウェブ上でのみの開催で、白い息が立ちのぼる賑わいは見ることができなかったが、通常は多くの人が訪れ、小さな村の宿泊施設は何年も前から予約でいっぱいだ。過去にはマイナス44度ということもあった(携帯電話やカメラはバッテリーの問題で数十分しかもちません)ので、お越しの際は寒さ対策を万全に。

最後に、キールナへの行き方について。飛行機だとストックホルムから約1時間半。だが、僕は電車での旅をお勧めしたい。ストックホルムを夕刻に出発する18時間の旅で、キールナ着は翌日の午前中だ。夜明けの車窓、食堂車での旅人同士の交流、北上するにしたがい変えてゆく森の姿。忘れられない旅となることを約束します。

Take care, Noritake


写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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