#10 B:Bulle(小さなパン)

スウェーデン ABCブック

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Bulle  
ブッレ 
名詞 
パンの種類。小型で多くは丸い形をしている。食事用だけでなく、コーヒーブレイク用の甘い種類もある。最もポピュラーなものにKanelbulle(カネールブッレ=シナモンロール)がある。 
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スウェーデン語のBulle(ブッレ=小さいパン)、Boll(ボル=ボール)、Bula(ブーラ=たんこぶ)など、これらの単語の語源はインド・ヨーロッパ祖語のBhelにあるらしい。意味は「ふくらむ」だ(※)。この「小さくて丸くて膨らんだ」パンのBulleだが、多くのスウェーデンの人がこの単語を聞いた時に、まず思い浮かべるのが「Kanelbulle」、そう、シナモンロールだ。 

ちなみにこのシナモンロール、日本でも名称には馴染みがあるが、年齢によって思い浮かべる形や味がちがう。シナボン(Cinnabon)という名前に懐かしさを覚える方も多いはずだ。この90年代後半に流行した北米系のシナモンロール(シナボンはシアトルが拠点)は、背が高く、アイシングがたっぷりかかっているタイプで、かなり甘い。もうひとつは北欧系のシナモンロールで、平たく、塗り卵で艶出しがされていて、パールシュガーがかかっていることが多い。2006年公開でフィンランドが舞台の「かもめ食堂」以降だろうか、広く知られるようになった。四角く平らに伸ばした生地にシナモンパウダー、砂糖、アーモンドペーストなどのフィリングをしき、丸めた(ロールケーキのような)棒状のものを輪切りにして焼き上げる。ただ成形や模様の出し方にはさまざまな方法があり、北欧各国でもスタイルが違う。また、食感もしっとりしたものや、ふわふわしたもの、カリカリしたものなどベーカリーや家庭によってだいぶタイプが分かれる。 

おそらく、これらの他にも世界の各地にはシナモンを使った菓子パンがあるに違いない。けれど一説によるとシナモンロールはスウェーデン発祥であるらしい。南スウェーデンのルンド(Lund)にある歴史民族博物館キュルチューレン(Kulturen)の歴史学者アンデシュ・ヤンソン(Anders Jansson)氏によると、きちんとした研究が揃っているわけではないものの、現在の形のシナモンロールはスウェーデンで1920年代にはすでに登場しており、第二次世界大戦後、原料となる小麦や砂糖の価格が下がったことにより家庭でも広く作られるようになったという。前述の通り、現在ではBulleといえばシナモンロールのことをいうほどポピュラーになり、今ではシナモンだけでなくカルダモンなど他の香辛料を使ったBulleも親しまれている。 

カルダモンのBulle、Kardemummabulle(カルデムンマブッレ)。実は僕はこちらの方が好み。粗挽きカルダモンの香りだけでなく、そのプチプチした食感が楽しい。 

ちなみにスウェーデンでは10月4日はKanelbullens dag(シナモンロールの日)となっている。1999年、スウェーデンのホームベーカリー評議会(Hembakningsrådet)が設立40周年を記念して秋の収穫のシーズンに合わせたこの日をシナモンロールの日としたという。今これを書いているカフェで、隣に座った若いカップルに聞いたところ、日にちまできちんと覚えていたので、かなり浸透しているのかもしれない。 

ストックホルム市内のカフェSaturnus(サトゥルヌス)のBulleは大きくて有名。2〜3人でシェアする姿をよく見かける。 

これまで何種類の、そして何個のBulleを食べてきたか覚えてはいないが、今の時点で僕が最も美味しいと思っているお店のBulleを最後に紹介しておこう。 

その店は、Enskedeparkens bageri(エンシェーデパルケンス・バーゲリー)。2014年開店。その後わずか2年で大手新聞社が毎年開催するアワードで最優秀カフェを受賞し、一躍有名店の仲間入りを果たした。驚くことにオーナー夫婦はともに飲食店の経験がまったくなく、パン作りについては短期の講座を受講したのみで独自研究が主だったという。 

ここのBulleの特徴は何よりその食感。歯を当てた時、噛みしめた時に、表面のカラメリゼしたようなパリパリ感 ➡︎ミルフィーユのような生地の層 ➡︎ 中のしっとりもちもち、を順にはっきりと感じることができる。 

店舗は1700年代の文化保護物件を最小限改装して利用。店内の席数はすくないが、公園に接しており、外席の利用が気持ちいい。

Take care. Noritake 

写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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