『手作り・安心・穏やか・喜び・ノスタルジー。ヘルシンキの中心地の古い建物に集められたフィンランドのデザイン』

北欧 フィンランドからの手紙

2012年にオープンして以来、フィンランドのアーティストやデザイナーのためのショーケースとして、ギャラリーとして、またアートを日常でも楽しめるような雑貨を揃えたライフスタイルプロダクツを販売するお店として展開してきたLOKALのポップアップショップへ行ってきました。

場所はヘルシンキの中心を走るアレキサンダー通りにある、1899〜1901年に建てられた元Pohjala社(大手保険会社)の本社。1987年からは「Kansallissali(ナショナルホール)」と正式名称が変わり、民間に貸し出しされるホールとなりました。建物はアールヌーボー様式(正確にはフィンランドのナショナル・ロマンティシズム)で、ファサードにはフィンランドの民族叙事詩カレワラの登場人物や熊やトロールの彫刻、内装のステンドグラスはきのこがあしらわれています。

この時代のフィンランドの建物は全体的に重厚感があり、それでいて装飾などは華やかなのでとても大好きです(パリに住んで時にはアールヌーボーにハマっていたので心底ツボなのでしょう)。私たちが一昨年まで住んでいたウッランリンナの建物も同時代(確か1903年建立)のもので、アール・ヌーヴォー調で面白かったです。内装やファサードには曲線が多用されていて、自宅の玄関のステンドグラスは猿の絵にダークな詩という渋さでした。ウッランリンナやエイラ、クルーヌハカやエイラなどヘルシンキ南部湾岸沿いの地区に見られる19世紀後半から20世紀初期に作られた建物は、ヘルシンキに首都が移り再開発の真っ只中に作られたことから当時の建築スタンダードが比較的緩かったそうで、自由で芸術的な建物が多いということです。そして建物の一つ一つに美しい名前がついているのもまた可愛いのです。(私たちの住んでいた建物の名前はアルッピでした。かわいい)

Kansallissaliはエレベーターを指す標識がフィンランド語の「HISSI」ではなく、英語をフィンランド語風にした「Elevaattori」になっていたのはちょっとした驚きでした。

大広間には手作りのラグ、陶器やビーワックス(蜜蝋)で作られたキャンドル、ヒンメリ(藁で作った多面体で光を表現したフィンランドの伝統のモビール)、木の皮で作られた籠や日本の曲げわっぱような容器、アクセサリーなど、国内の新進気鋭または評価の高い経験豊富なデザイナーやアーティスト、手工芸作家によるデザインプロダクツが心地よく配置されています。

手作り・安心・穏やか・喜び・ノスタルジーをテーマに、アートを身近に考えられような、そして地球や自然と近いところに身を置けるようなサステイナブルな生活用品や雑貨をたくさん見ていると、モノに囲まれていても疲労感が湧いてこないどころか、清々しい気持ちになりました。フィンランドに来てますます物欲がなく、モノを買うことが滅多にない私ですが、最近はもし必要となる場合には環境に考慮し、哲学的で作家の意志を感じられるような雑貨や、想いや時間が込められた手作りのものを少しずつ揃えていきたいと思うようになりました。

大人になるって、選び取る一つ一つのものから、長期的に人生にもたらす意味や喜びを見出していくことなのかな。

なにしろ、訪れる人をこんな清々しい気持ちにさせる空間はなかなかない。ここには、人々の「良い想い」が込められているよう。古く美しい建物だからこそ、フィンランドの各地から集められたデザインプロダクツやアート作品がさらに輝けるのかもしれない。そんなインスピレーションをたくさん受けられる訪問でした。



写真・文 : 吉田 みのり

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