『脱炭素社会へ。フィンランド政府、2035年までにCO2排出ゼロを目指すと宣言。』

北欧 フィンランドからの手紙

2019年6月、当時のアンティ・リンネ社会民主党党首によって牽引されていたフィンランド政権は「2035年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ目標」を発表し、連立与党5党との合意に成功しました。その政権は2019年12月よりサンナ・マリン現首相に引き継がれ、カーボンニュートラル (※ 何かを生産したり、一連の人為的活動を行った際に、排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量である、という概念。Wikipediaより)を「カーボン・クレジット」の購入に依存せずに達成する世界で最初の国になる目標を掲げ、様々な取り組みを行っています。

温暖化による異常気象は昨今のフィンランドでも明らかに感じられるようになりました。かつて冬といえば10月の終わりには初雪が降り、積もる雪の上でスキーやスケートを体育の授業で教わったりしていたものの、ここ7年ほど南フィンランドでは積雪のない味気ない真っ暗なクリスマスが続いたり、「ミッドサマー(夏至)」を祝うはずの週末がクリスマスや大晦日の気温より低かったり、かと思えば翌日には気温が25度に上がるなど、著しい温度差が生じたり。

北欧の短い夏の間に海で泳げるのは最高の贅沢で喜びであるのに、有害物質と言われる青緑色の藻類(シアノバクテリア)が発生し、海水浴を控えるよう警報が出てしまったり。そんな事態に次々と遭遇し、フィンランドの若者たちを中心に、異常気象を心配し不安を覚えるあまり、動悸がおこるなどの「環境不安」症と言われる不安症の症状が起きているほどだそうです。

寒冷地であること、国土が広く、運輸業が要であること、そして国民の生活水準が高いことから、一人当たりのエネルギー消費量がヨーロッパ一という現実を抱えているフィンランドでは、排出削減対策を加速し、炭素吸収源を強化することで「カーボンニュートラル」の達成を実現しようとしています。

具体的には、食生活を変えることで温暖化を抑える方法を模索したり(環境に優しい食糧生産・消費の在り方を考える)、鉄道網への投資、エネルギー税制改革(地熱を使う発電は税を軽減するなど)、電気自動車購入のための財政支援の提供など様々なプログラムが用意されています。フィンランドでは石炭の利用がすでに減少傾向にあり、2012年から行った再生可能エネルギーへの積極投資によって、風力発電の発電量が2倍に成長し、石炭による発電は13%まで削減されているそうです(世界全体の平均は38.5%)。

同時に、国民の多くも、重い責任を感じ、自分たちの行動パターンや価値観を見つめ直す機会を持つことを余儀なくされています。環境に配慮した生活の実践は日々、様々な場で見られます。身近な例では、都会に住んでいる人も公園などに併設されている農園を借りて自分たちの手で野菜を育てたり、コンポストをして肥料にする活動が若者の間で流行りだして10年ほど経とうとしてます。または、肉消費を減らすことが環境に良いことだという考えは一般化され、多くの人がヴィーガンになったり、肉は月に1回まで、またはジビエ肉なら食べて良い、などの自分なりのルールをそれぞれ決めて肉の消費を減らす努力をしたり、カーボンフットプリントの高い食べ物の消費を避けたりしています。電気自動車の市場は拡大傾向にあり、エコバッグを持ち歩く人がほとんどになりました。

これから2035年にかけて、どのように社会が、そして人々のライフスタイルや価値観が変容していくか、楽しみです。未来の自分や子どもたちが、冬らしい冬を、そして夏らしい夏を楽しみ、美しい自然と安全な空気のなかで暮らせるよう、私も日々、気を引き締めて環境問題について考えていきたいです。



写真・文 : 吉田 みのり

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