『最近の試作品(北国の果てで和食を作ることになるとは。)』

北欧 フィンランドからの手紙

過去の記事で何度か触れてきたが、ヘルシンキで居酒屋を開催している。本当は2020年に開店予定だったものの、コロナ感染症でフィンランドに緊急事態宣言は発令されて機会を逃し、現在はポップアップレストランや他のレストランやパブ、バーとコラボレーションという形で不定期に居酒屋の夜をオーガナイズしたり、ケータリングを依頼されて料理を作っている。

ありがたいことに昨年末には、フィンランド最大手の新聞「Helsingin Sanomat」の記事で私たちのポップアップ居酒屋が2020年のヘルシンキのヒットレストランの一つに選ばれたりしたこともあり、2年前に初めて開催した時はお客さんが来るか心配していたほどだったけれど、最近は発表して2時間足らずで予約満席になったり、絶対に手の届かないと思っていたようなレストランからコラボレーションのお声がかかったりと、客層が広がってワクワクすることがどんどん増えてきた。

毎回、季節や開催するお店に合わせて食材や雰囲気を変えるのもとても楽しい。ピンクや紫のネオンが輝くポップなクラフトビールのお店で開催した時は、思い切りワイワイとした「居酒屋感」を醸すことにしてお好み焼きや油そばなど味が濃くて友達と分けて楽しめる料理を作ったし、秋は森で自分たちの手で採ってきたきのこを使ったあんかけ豆腐を出したりした。年末年始はちらし寿司に鴨そば、そしてちょっとしたおせちも。

レストランを開催してない日は何をしているかというと、基本的に毎日IT会社で朝から夕方まで働いていて、ラジオ(アシタノカレッジ)に生出演してキニマンス塚本ニキさんとおしゃべりしたり、あとは本を読んだりしている。けれど基本的に空いている時間は試作品を作るために魚屋さんや肉屋さんやアジアンマーケットを右往左往しながらキッチンにこもって料理をしていて、特にこの1ヶ月は毎日のように試作品作りをしている。はんぺん、塩辛、カワメンタイという魚の魚卵で作る辛子明太子、アンコウじゃなくてカワメンタイの肝で作るなんちゃってあん肝などを作ったり。

はんぺんは、日本ならコンビニでだって帰るしとっても安価なのに、自分で作ろうとするとかなりの手間がかかる。タラやブリームなどの白身魚を撹拌して、山芋などを加えて練って茹でるのだけど、ふわふわにするまでに空気を入れこむ必要があるので練る作用に時間をかけることが重要。塩辛はイカをさばくところから始まる。

いやー、20代の頃は、いや30歳になってフィンランドに住み始めた時だって、まさか自分がはんぺんを作ったり、明太子を漬けたりするとは思ってもみませんでした。「買うのが当たり前だと思ってたもの」をこうやって一つ一つ手作りするようになると、見えていなかったものが見えてきたりする。今まで何の気なしに手にしてきた恩恵は、果てしなく贅沢なものだったんだなと気づく。

この調子でこれからも、人生で挑戦するとは思っていなかったことに挑戦していくことになるのだろう。そして、手間をたっぷりかけた料理を多くの食べてもらって、笑顔が見れるなら、こんなに良いことは人生でなかなかない。そう思いながら今日も私はイカをさばく。



写真・文 : 吉田 みのり

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