『フィンランドの結婚事情(事実婚の増加、同性婚の合法化、苗字の選択肢)』

北欧 フィンランドからの手紙

事実婚の増加と同性婚の合法化

フィンランドでは1970年頃から「結婚」という制度に懐疑的な態度を示す人が増え始め、2014年の統計では「20~24歳では85.5%が、25~29歳では63.3%が通常の婚姻ではなく事実婚の関係にある」(※1)というデータが示すように、特に若い世代を中心に通常の「結婚」にとらわれる人はそこまで多くありませんでした。2002年からは婚姻制度以外に性別に関わりなく事実婚も合法的に認められるようになりましたが、異性愛者に認められる権利は同性愛者にも認めてこそ平等という考え方から、同性間の結婚を合法化すべきという声が上がり、紆余曲折を経て2017年にようやく同性婚の合法化が発効されました。私の夫のお姉さんは7年間交際していた彼女とその年に結婚し、二人は村で初めての女性同士の結婚式を執り行いました。

実はこの同性婚合法化は、フィンランドで初めて市民によって牽引され可決した法律であると言われています。「市民イニシアティブ法」は2012年に発効した、6か月以内に最低5万人の賛同の通知や署名があった場合は国会で取り上げなければならないとする新しい法律ですが、2013年に始まった同性婚合法化のキャンペーンでは、初日で10万人、最終的には16万人以上が署名し、これが国会で2014年に可決する運びとなったのです。

このことからも分かるように、フィンランドでは「ルールや法律は国民を受け入れて作るもの」、または「国民がイニシアティブを取って、自らルールや法律を作る」という意識が共有されているといえるでしょう。この背景には、人口が少なく、政治家や権力者と一般市民の距離が比較的近いことや選挙投票率が高いこと、また、元来裕福な国ではないために上流階級の層が薄いことから中流階級の声が伝わりやすいことなどが挙げられます。声が伝わりやすい環境だからこそ、挙げた声に価値がつく。そしてマイノリティであれ、小学生であれ、自分たちのことは自分たちで責任を持って声を挙げて、響かせていく。このような姿勢はお隣の国・スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの気候変動危機への呼びかけのストライキ活動の姿勢とも共通していると思います。

フィンランドでは結婚にあたって同性、別姓、複合姓、創姓の4つの選択肢がある

日本では長い間にわたり選択的夫婦別姓制度の導入の是非が議論されていますが、フィンランドでは現在、同性、別姓、複合姓、創姓の4つの選択肢があります。届け出を出さない場合はそれぞれ自分の姓を保持するため、夫婦別姓の婚姻関係となりますが、お互いの苗字を繋げたり、自分たちで新しく名前を作ったり、どちらかの苗字に統一したり、婚姻後の自分の苗字を自由に選ぶことができるルールは楽しくて心地の良いものに感じられます。様々な選択肢があることによって混乱が生まれたりそれを理由に家族の一体感が失われたりしている様子は社会では特に見られません。

古い価値観や伝統にこだわる一面も

同性婚の法整備が北欧諸国の中で一番遅かったフィンランドでは、古い価値観や伝統にこだわりを強く抱く人が多いという一面もあります。移民や難民の受け入れ政策に関しても、スウェーデンやノルウェーなど他の北欧諸国と比較して長い間にわたり非常に消極的でした。最近になってようやく、出生率の低下や高齢化社会などの社会問題の解消策として積極的な受け入れが始まりましたが、それにより「真のフィンランド人」のような右派民族主義政党が台頭し、「移民や難民にフィンランドの限りある社会福祉の恩恵を与えて良いものか。それで国は守れるのか」と警鐘を鳴らし、多くの保守派の国民から支持を得ています。フィンランドの映画監督のアキ・カウリスマキ監督の最新作『希望のかなた』の中ではそのような変化に揺れるフィンランドの様子が描かれ、国民や他国の人々に考える機会を与えています。

また、ミス・フィンランドや聖ルチア祭(キリスト教のお祭りで、12月13日のルチア祭には学校や地方自治体などから今年のルチアとして女の子が代表として選出される)などでは「金髪で碧眼の白人こそが真なるフィンランド人である」として、伝統と画一的な民族にこだわる人と、「多様性こそ新しいフィンランドの姿」としてフィンランドを一つの型に入れこまない考え方を推し進める人が、しばしば議論を対立させています。何が正しく、何が間違っているかは誰にも分かりませんし、答えのない問いもたくさんあるでしょう。社会に生きる限り、自分と異なる意見を持つ人と遭遇することは避けられないことです。フィンランドの人々はそのようなことを踏まえた上で、大抵の場合においては冷静に、論理的に意見交換することに努めていると感じられます。

※この文章はShe isに掲載した記事に加筆・修正を加えたものです。転載の許可は取得済みです。

写真・文 : 吉田 みのり

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