『フィンランド人がポーランドにオープンしたワインショップ「Viini」』

北欧 フィンランドからの手紙

私の親友のナタリアとペッカは、ヘルシンキの料理学校「Perho」で出会ったカップルだ。ナタリアはポーランドから10年以上前にフィンランドに来て、一度結婚して離婚し、その間にシェフ学校に通いだした。二人の出会いは学校だけど、恋に落ちたのはインターン先のホテルのレストランで一緒に働くようになってから。卒業後は二人、シェフとソムリエとしてヘルシンキで一流のレストランを転々としながら腕を磨き、一昨年はワインのことを学びにニュージーランドへワーキングホリデーに、そして2019年末にはワインバー兼ショップを開店するためにナタリアの母国のポーランドへ。(ナタリアはフィンランド国籍を取得しているのでフィンランド人でもある)

開店準備中にコロナ感染症がポーランドでも流行し、二人のお店はワインバーからワインショップへと一時的に限定された形でヴロツワフにオープンした。その名も「Viini(フィンランド語でワインの意味)」。ポーランドやチェコ、オーストリアなどの国々のワイン生産者の元に足を運んで、ブドウの収穫を手伝ったり畑の具合を確かめたりしてセレクトしたオーガニックやバイオダイナミック農法、昔ながらの手法で作ったワインなどを取り扱うお店だ。フィンランドではワインやウイスキーなどアルコール度数が5.5%以上のアルコール飲料の輸入と小売り販売は国営企業のAlkoが独占的に行っているため、訪れたお客さんにワインを一本一本手売りするのははじめは不思議な感覚だったそう。

二人の小さなお店は地元の人々の口コミによって次第に知られるようになり、雑誌掲載やSNSでも取り扱われるようになってきている。そんなさなか、クリスマス休暇を利用してペッカがヘルシンキに里帰りしている。御土産にワインとお店のオリジナルで作ったというワインオープナーを持ってきてくれた。

ペッカとナタリアがヘルシンキに住んでいた頃は、毎週のように二人の家に遊びに行っては美味しいワインと料理をご馳走になったものだった。フィンランドに移住する前はナタリアはチェロ奏者で音楽学校に通っていたため、音楽の話をよくした。そしてイタリアやポーランドの映画やイタリアの文学、世界各国の美術の話もできる稀有な友達の一人だった。

ペッカはひょうひょうとしていて穏やかで気前が良く、ナタリアは心優しく情熱的な性格。二人とはパーティーをしたり、サウナに入ったり、ミッドサマーを一緒に過ごしたり、ポーランドに尋ねに行って一緒にヴロツワフやワルシャワの街を歩いたりもした。

また、彼らを通して多くのレストラン関係の友達ができた。当時このまだ世界で働くことなど考えていなかった私にたくさんの経験豊富で優しいソムリエや面白くてフレンドリーなシェフや友達想いで趣味が良いワインや日本酒のインポーターを紹介してくれたのも二人だ。この世界に入る前は「私なんてちゃんとした料理学校にも通ってないし、経験もないし」とキッチンで働くことを躊躇していた私に、「あなたはとっても賢いし素敵なハートを持っているから大丈夫。学校なんて行かなくても仕事ができる人はできるから。あなたの良さを分からない人が損してるだけ」「僕が世界で一番好きな食べ物はきみの炊いたお米だよ。みんなにその美味しいお米と卵焼きを届けるんだ!」と何度も何度も優しい言葉で背中を押してくれた。私と夫のベンヤミンが出会う前からお互いの共通の友達だった二人は、私たちが出会ったことを心から喜んでくれたし、結婚式にはニュージーランドから飛んできてくれた。私たちの居酒屋プロジェクトの記念すべき第1回を手伝ってくれたのもペッカとナタリアだ。彼女たちがいなければ私は今ここにいなかった。あぁ、本当に良い思い出ばかりがスペイン巡礼で訪れたワインの泉のように湧き上がってくる。

2年前の夏の終わり、悲しいことがあって、ナタリアとこんなやり取りをした。ツイートしたら、8000以上ものいいねをもらった。

最近人間関係での悩みが多く、親友に元気がないとメールしたら「会いに来て。時間作るから。胸に詰まってること全部話して」と返事がきた。3日後に会ったら、「さぁ!今日は6時間あなたのために空けたから。全てあなただけのための時間。好きなことを話して。全部聞く」と言ってくれて泣きそうだった。

それで、「日なたに座って、心地よい風に当たって話そう!」とか「ビールを飲もう!」とか言って話しやすい環境を作ってくれて、そしてずーっと話を聞いてくれた。そしてこう言ってくれた。

「わたしたちの人生は一度きりで、あなたには自分と、ベンヤミンと、猫を幸せにすることにまずエネルギーを使うしかない。そこから、他の人へ回していく。好きな友達、明るく楽しく話せる友達など。あなたのエネルギーやパワーを吸い込んでやろうと企む吸血鬼に割くべき時間なんてこれっぽっちもない」

最後、別れ際に長くて強いハグをしてくれて、家に着くまでにメールをくれていた。「今は困難の時期だけど、必ずすぐまた人生を楽しめるようになる。好ましくない状況が人生に暗い雲を落とさないよう、悲しみを手放して、愛を持って生きてね。わたしがフルサポートするから!」なんてセラピーだ。

本当にこれだと思った。

「あなたを愛するその人とは、あなたがそれを最も必要としているときに、あなたを力の限り愛してくれる人」

「あなたが自分自身を全く愛せない時に、あなたをより強く愛してくれる人と一緒にいなさい」

こんな人たちが選んだワインだから、いつもとっても美味しい。一緒に飲むと、そのワインを作った人たちのことをたくさん話してくれる。「このブドウ園を引き継いだ息子は、僕たちと同じ年くらいのワイン会ではまだ若手の作り手でね。突然亡くなってしまった父親の意志を引き継いで新しいワインを作り出したんだ。ぜんぶ手作りだから時間がかかるけど、家族で力を合わせて作ってるよ。このワインを見つけた時は掘り出し物の宝石を見つけた時のように嬉しかったな。ブドウ園のすぐ隣にはかぼちゃ畑が広がっててね、だからかぼちゃ料理と合わせると自然とマッチするんだよ。」

空がオレンジ色に染まる夕焼けどき。汗だくで仕事を終える次いでに、晩ごはんのためにかぼちゃをもぎ取る笑顔の家族の姿が浮かぶ。自分たちの作ったワインに合わせて食べるかぼちゃ料理は慎ましやかながらも絶品だろう。ポーランドに住んでいる方はもちろん、いつか日本やまた他国からヴロツワフを訪ねる時には是非二人のワインショップに足を運んでみて欲しい。両親のガレージを改造して作った小さなお店。二人の選んだワインから、彼らの哲学やひととなりが味わえるだろうから。


写真・文 : 吉田 みのり

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