番外編 (4) ナポリのドナレジーナ現代美術館

北欧 フィンランドからの手紙

ナポリ滞在中に、「ドナレジーナ現代美術館(Museo d'Arte Contemporanea Donnaregina)」に足を運びました。前日にはパラッツォ・レアーレ・ディ・ナーポリ(Palazzo Reale di Napoli)という王宮を訪れていたこともあり、現代美術館もまた大きな建物が並ぶ官庁のそばにあるのかなと勝手に想像していたら、昔ながらの情緒あふれる旧市街地の中にひょっこりとあってびっくりしましたが、このギャップがまたナポリらしい遊び心に溢れていて良かったです。

2005年にオープンした比較的新しいこの近代美術館は「Madre(マードレ)」という通称で愛され、ナポリに所縁のあるアーティストから国際的に活躍するアーティストまで多種多様なアーティストの作品を常設展と特別展という形で展示しています。ナポリと縁の深い大御所アーティスト、ミンモ・パラディーノ(1948-)の彫刻「馬」はなんと中庭に向かう屋上に。

特に期間限定の特別展「Rethinking Nature」は最近見たエキシビションの中でも非常に印象的で色々な感情を引き起こす素晴らしいものでした。イタリアをはじめ、ギアナ、キューバ、ペルー、ブラジル、チリ、南アフリカなどの世界各国のアーティストが集って作り上げるこの展示会のテーマは「自然の再考」。加速する地球温暖化や海面の上昇、おびただしい数の絶滅危惧種、気象異常など多くの環境問題を抱えた地球の中で、最もその危機に直面してきたのは農民、漁師、イヌイット、先住民などの人々です。この展示では現在までにおけるヨーロッパ的、帝国主義的な立場で自然を支配してきた歴史を振り返り、複雑な生態系が多国籍政策によって搾取されてきた自然と政治との関連性や、非人間的・非倫理的な支配的文化を見つめなおし、共同責任の模索や地球と人間との関係を伝統的知識に基づいて精神的に結びつける実践を試みています。

こちらはグアテマラのビジュアル・アーティスト、Sandra Monterrosoによる作品。

Expoliada Ⅱ (2016)

グアテマラに存在する20を超える民族のうちの一つであるケクチ族マヤ文化の物質的な思考形態を表現したこの作品では、コミュニケーションと喪失が織り込まれる比喩的な表現として、女性のケクチ族に伝わる職人技を用いています。3列の糸で構成されたこの作品は、黄色がマヤの宇宙学、天頂と地球の表象となっています。各列は徐々にその鮮やかな色の一部を失います。この句品の物質的な象徴性は、マヤのコミュニティが受けた征服と没収の歴史を受け、「略奪された」と解釈される作品のタイトルによって明らかにされます。国の歴史、特にグアテマラの大虐殺(1960-1996)は重要なテーマの一つとなっています。

美術館の窓からは南イタリアの明るい光が射し、愚かな人間たちが作り出してきた世界の悲惨が返って浮き彫りにされるようでした。窓の外に目をやると下町の世界が垣間見える不思議なアート空間。これからもどんな企画があるか、楽しみです。

文 : 吉田 みのり

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