『ヘルシンキの桜もついに満開に!日本風庭園の桜のひみつ』

北欧 フィンランドからの手紙

日本人観光客に圧倒的な人気を誇るマリメッコのアウトレットがあるHerttoniemi駅から歩くこと15分、Roihuvuoriという地区にJapanilaistyylinen puutarha(日本風の庭園)と呼ばれる公園があります。別名Kirsikka puisto(桜公園)。

この公園には150本の桜の木があり、毎年5月頃になると一斉に花を咲かせ、見渡す限りの丘をピンクに色に染めます。その光景があまりに美しいため、この時期になると多くの人が集まり、ピクニックをしたり写真を撮りに来たりします。

この公園を作ったのは、ヘルシンキの中心地にある、日本の食材や日用品を取り扱う「東京館」の創設者・富田さん。1970年代後半にフィンランドに移住した富田さんは、桜がある公園を作るため、フィンランド在住の日本人などから募金を集め、はじめは1998年にAlppilaに52本の桜を植えたそうです。しかし土壌があまり良くなかったため、その半分は枯れてしまったそう。

Alppilaに住んでいる私にとっては、一番身近にある桜の木です。富田さんのお蔭でこの桜があるなんて!

その後も桜の木を植えることを続けることを決意した富田さんが次に選んだ場所がRoihuvuoriだったそうです。1990年代に日本風の庭園として竹で作られた門や石の庭園などがあった公園は、まさに桜にぴったりの土地でした。2006年に152本の桜の木が植えられ、2008年にはフィンランドで初めての大きな「花見祭り」の開催がかなったそう。私が初めて参加したのは2014年でしたが、その頃にはすでに有名なイベントとなって、多くの人を集めていました。

屋台でカレーライスや焼きそば、今川焼や日本風のクレープを売る人、舞台で音楽コンサートを演奏する人、空手やパラパラのパフォーマンスをして会場を盛り上げる人など、多岐のジャンルにわたって日本を愛する人や日本に興味がある人が集まる、大規模なお祭りとして人気を博していたイベントは、桜を見るというお花見を通して、食事や日本の楽器、音楽や着物、そして武術などの文化を知る場として、また交流をする場として多くの人に愛されていましたが、コロナの影響で去年と今年は中止。それでも、桜はちゃんと咲いてくれます。その姿に元気をもらった人も多いのではないでしょうか。

実は個人的には、桜というと大学生の時に受けた、故・菅聡子先生の日本文学の授業で扱った「細雪と桜とナショナリズム」のテーマの印象が強く、ずっとネガティブなイメージを抱いていました。授業では故・若桑みどり先生の本や細雪を読みながら、明治から昭和の初期かけて、桜の花の意味が政治的・軍事的象徴へと変容させられていった過程について学び、軍国主義における理想の日本人のアイデンティティを、美しく咲き誇りあっという間に散る桜の姿に重ねるというナショナリズムを正当化した流れを知りました。その後は桜を見ると、その美しさにある政治的背景や歴史を考えると、複雑な気持ちになる自分がいました。

しかし和樂の彬子女王殿下の連載記事を最近読み、お花見の文化の起源を知ると同時に、平安の文化では「桜が咲くことは神様が下りてきてくださった証なのである」という意味があったことをなどを知り、明治から昭和の初期にかけて政治的・軍事的象徴として変容される以前の桜のことをもっと知りたいと思うようになりました。小さなことですが、自分にとってはとっても嬉しい転換となったのでこの記事にとても感謝しています。

長くにわたって日本で愛されてきた桜が今はヘルシンキのあちこちで楽しめることが、とっても嬉しいです。そしてフィンランドの人々からも圧倒的に愛されている桜。フィンランドのコスプレイヤーの人々も桜の前でたくさんの写真を撮っていました(許可をいただき、わたしも撮影に参加しました)!

写真・文 : 吉田 みのり

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