#27 森の散歩ときのこ

スウェーデン ABCブック

スウェーデンに来てから15年近くになるというのに「ああそういうことだったのか」と思うことは今だにたくさんあります。先週末、友人家族とうちの近くの森にでかけました。もともとは僕が「日曜日、よかったら森でフィーカをしない?」と誘ったわけですが、お互い子連れですし、かるく森を散歩をして焚き火でマシュマロでも焼いたりしたら子供たちもよろこぶかな、ぐらいに考えていたわけです。 

Svart trumpetsvamp直訳すると「黒いトランペット」フランス語では、死のトランペットというらしい。美味 

予定の森はうちの近くの自然保護区。焚き火は決まった場所でしか許可されていなくて、森の入り口からそこまでは子供の足で20分ほど。13時集合として、僕は勝手に、往路30分、焚き火の場所で1時間、復路30分、15時に解散のアクティビティ、と考えていました。ですが、蓋を開けたら焚き火の場所に着いたのは遅れに遅れて14時半。理由はこどもの歩みの遅さではなく、友人夫婦にありました。食べるとレモンの味がするという野草や根っこがアニスの味がするというシダ植物、とさかのかわいい鳥、珍しい形のきのこ、おいしいきのこ、それらを目にするたびに友人夫婦は足をとめるわけです。そして1時間半後、ようやく目的の焚き火の場所について、さあ、火をおこし、ホットチョコレートを子供達に、煮出しコーヒーを大人たちに、マシュマロを焼いて、湖をながめながらのんびり、と思っていたのですが、ちょっと腰を下ろしてコーヒー休憩した程度でまた森にもどっていく雰囲気に。そこで例の「ああそういうことだったのか」になりました。 

Taggsvampシロカノシタ)。傘の裏がトゲトゲしているのが特徴。美味。 

僕は知らないうちにこの森でのフィーカを大事なイベント/目的に仕立てあげていたようです。「よし、フィーカした。チェック」と、心の中のやることリストに完了の取り消し線を引くような。本当の大事なことは森の中の散歩の全ての瞬間にあるはずなのに。焚き火をする、きのこを取る、バードウオッチングをする、会話をする、お互いを知る、それらは散歩の中でふと何気なく立ち現れるものであって、最初からそれが目的なんじゃない。僕だってもちろんそのことを知らなかったわけじゃないけれど、どういうわけか、チェックポイント、目的、理由、みたいな事柄にとらわれがちになってしまう。 

今回のきのこたち。それぞれかなりのボリュームが採れました。 

スウェーデンにきてまもなく、ちょっと驚いたことがありました。それは「趣味はなんですか?」の問いに「散歩です」と答える人が多かったこと。僕にとって趣味とは、ギターでも映画鑑賞でもヨガでもワークアウトでも、なんでもいいけれど、こだわりのあるもの、深めていくもの、前進していくもの、そんなイメージがありました。「散歩」にそれがあるのかな、そう驚いたわけです。でも、そもそも僕の問いが間違えていることに「ああそういうことだったのか」と気付いたわけです。 

採ってすぐのきのこはバターなどで炒める前に、空煎りして適度に水分を飛ばすといいとか。 

おそらく「趣味はなんですか?」の問いは、スウェーデンの人には「自分の時間はなにをしているの?」という問いと同じことなんです。だから「散歩」も答えになりうる。そして、あたりまえだけど、人は自分の自由時間を全て「趣味」につかうわけじゃない。「ギターの練習」をすることもあれば、「散歩」に使うこともある。そして、そういう「散歩」みたいなものには、こだわりや深めていくもの、とは別の、目的や理由をともなわない「ふと何気なく立ち現れるもの」を受け止めるようなところがあって、「趣味」と同じか、もしかしたらそれ以上に大切なのかもしれない。 

Kantarell(アンズタケ)とTrattkantarellろうと型のアンズタケ、という名前だけどアンズタケの仲間ではない)共に美味。 

僕はどうも、目的や前進、みたいなものに囚われすぎのようです。目的のない散歩、何もしない日だけでできた旅程。まだまだ修行が足りないようです。 

今回はパスタソースにしました 

今回はこの辺で。 

Take care. Noritake 

写真・文:アケチノリタケ
スウェーデン生活は、2007年の北極圏のキルナで、極夜のなか幕開け。月日は流れ、今はストックホルム郊外の群島地域で家族3人の生活です。クラフト、デザイン、ライフスタイルの分野を中心に、日本とスウェーデンの架け橋になるような活動をしています。互いの文化の同じ/違うところにふれながら、自分の輪郭がぼやけていくのを楽しむ日々です。
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